ゆずっきーに

ヤクザと家族 The Familyのゆずっきーにのネタバレレビュー・内容・結末

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

藤井監督の画面構成は極めて理性的であるがそれ故に遊びが少ない。すべてのカットの意図が理知的に説明可能であるということは即ち作品の見方を固定することであり、解釈の幅が広がり得ない。『新聞記者』のラストなんかは個人的にすごく好みなのだが。

神は細部に宿る、ということで例示として作中のワンシーンを『ゴッドファーザー』と比べてみたい。
まずは本作。
主人公の賢治が敵方・川山をビール瓶で殴った後、賢治は組長の柴咲と共に舎弟の運転で街を走る。カメラは車内後部座席にFIX。ガタガタとブレさせながら柴咲を撮ることで、観客も車に同乗しているかのような臨場感を演出する。この時点で(報復で川山サイドが襲いに来るんやろ…)と思いながら鑑賞していたら、案の定バイクが横に付けての銃撃。賢治と柴咲は大事なかったが、舎弟が首を撃ち抜かれて死んでしまう。ショックと怒りを隠せない賢治を長回しで撮影してシーン終了。観客をノセるための撮り方が徹底されている。
一方の『ゴッドファーザー』。
宿敵タッタリアファミリーによって部下のソロッツォが殺された後、ドン・コルレオーネも店から出てきたところを銃撃される。カメラは店先の斜め上、街灯程度の高さにFIX。ドンは血を流して倒れ伏し、抱えていた紙袋から果物が路上に転がり出てくる所までをひたすらFIX(記憶違いかもしれない)。一連の所作は客観的写実的に、しかしそれ故に一層冷酷な印象を観客に与える。

銃撃シーンだけ取ってもどうにも本作はチープ…というか、臨場感一辺倒でアトラクションっぽさが拭えないというか、「まあそう撮るのが75点だよな」みたいなカットが非常に多い。役者の演技を褒めるレビューも多いが、こういう苦しいテーマ(人が死に泣き叫ぶ感じ)だと必然的に良さげに撮れてしまうものなので何とも言えない。
常田大希のEDを監督がインタビューで絶賛してたのも個人的にいただけなかった(ファンの方すみません…)。監督自身の作品もべた褒めしていたけれど、これから先の藤井監督の変節を追いかけたい一鑑賞者としては微妙な心持ち。

批判強めになってしまったが、全体通して面白く観れたし、こんなにも高いクオリティで撮れる邦画監督もそうそう多くはいないだろう。
「普通に良い」作品を作れてしまうが故に、天井も見えてきているような気がしてしまった。理性を携える以上に、狂気と複雑さを漏出させるアンビバレントな表現をも望みたいかもなあ、、と。
ゆずっきーに

ゆずっきーに