てる

ヤクザと家族 The Familyのてるのレビュー・感想・評価

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
3.6

ヤクザの栄枯盛衰の話し。
ヤクザと家族って題名なので、感動物かと期待していたが、やっぱりヤクザ物はヤクザ物でした。
しかし、昔の任侠物と違って現代のヤクザを描いていて、かつての任侠物のように男臭い作品という感じではなかった。

かつてのヤクザには任侠があった。義理と人情と侠気と金があって、少年には憧れの存在だった。だけど、現在では暴力団は犯罪者集団であり、近づくのも見るのも危険とされている。その認識は間違っていない。というか、ヤクザなるものを正しく認識し出したと思っている。
かつてのヤクザは自警団のような1面があったが、警察がいる日本では、もはや不要なわけだ。なので、ヤクザは悪い方向で稼ぐしかなくなっているのではないかと思う。
それを克明に浮き彫りしたような作品だと思う。

舘ひろしが演じるヤクザの親分はカッコいい。男が惚れる男だ。だが、彼のようにはもう生きれる時代ではないのだろう。
山本は普通に生きたかっただけなんだと思う。ただ、憧れる先がヤクザの親分だったというだけだ。唯一、彼に救いの手を差し伸べた大人がヤクザだったというだけだ。もし、彼に差し伸べられた手が違う職業の手であったのならば、あんな無残な最後を遂げることはなかったのではないか。

往々にしてこの手の任侠物やクライム作品は無残な死に方をする。それは死の美学なのか、それともこういう生き方はしてはならないよという教訓なのかわからない。
ただ共通してそういった作品を観る度に、私は思うのだ。教育って大切なんだなと。
彼らはちゃんとした教育を受けていない。義務教育を受け、高校、大学を卒業した者のことだけを言っているわけではない。人の物を奪ってはいけないよ、人を殺めてはいけないよという、社会で生きていく上で必要なことを教育されていないのだ。
義理や人情の為ならば、人を殺めても構わないと教え込まれた山本は、仲間の為に、仲間である為に人を殺めることを決意する。仲間の為に行った罪は彼をヒーローにしてくれると思っていたのに、実際は違った。
出所して彼を迎えたのは賛辞の言葉ではなく、古いヤクザである彼をもて余す先輩と、冷たい世間の眼。
山本が身に付けなければならなかったのは、高級なスーツでも、義理とか任侠とか侠気とかではなく、道徳心や社会性だったのだ。

実際に反社会勢力がここまで露骨に差別されているものなのかはわからないが、一理あるのだと思う。
由香ともっと深い関係を結べていたら、あんな行動には走らなかったのではないか。ヤクザという見せ掛けだけの家族ではなく、本当の家族が作れていれば非行には走らなかっただろう。愛情という物をもっと早く知るべきだったね。

人を傷つけた者は困ったときの選択肢に容易にその項目が増えている。山本も結局は道を外れた選択しか出来なかった。彼に他人を傷つけてはいけないよという常識を教育してくれる人がいなかったのが悔やまれる。
てる

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