おかちゃん

ブリキの太鼓 ディレクターズカット版のおかちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

【記録】

【久し振りの再鑑賞18/03/2024】
この作品は、○十年前の中学時代に劇場で見て、私の記憶へ鮮烈に残った映画だ。丁度、私が少年→青年期へ移行する時期にあたり、大人の建前と本音に辟易していた頃であり、この作品はそんな感覚を刺激しながらも、登場する人物達は現実問題を内包してリアルな毎日の生活に適応しようする様子と、それを子供が醒めた目で見つめた世界が、歴史の波に呑み込まれながら上手く描かれていて記憶に刻まれた。 配信で見れる事に気付き久し振りに観ることにした。

物語は、1次大戦下の東欧ポーランド領域で農業を営む市井(カシュバイ人)とヨーロッパ特有の民族混在した人々の生活から始まる。詳細な筋立ては映画を観てもらうとして、そのごくありふれた家族に、妙に洞察力鋭くて尚且つ吼え叫ぶと様々なガラス用品を破壊する特殊能力を持つ子供・オスカルが誕生する。そして、先ほど触れたように建前や本音を抱え込みながら、ありふれた生活を営む家族がリアルに、時としてえげつなく庶民の生き様をそのまま描いていく。そこへ節目節目にこのオスカルが家族破壊の危機を引き起こす。

時が進むと外面的に成長しないオスカルにも思春期が訪れる。彼の家へお手伝いとして若娘が一緒に生活するようになるが、淡き初恋となり思春期のモヤモヤ感となる。しかし子供姿のオスカルは、見事に親父に寝取られ憐れ彼の初恋は崩れ去る。そして血の繋がりのない後妻と、大人の策謀(実際にはナチ政権の拡大)によって彼らの家族と運命も翻弄されていく。

太鼓にも触れおきたい。ナチの式典で
少年団がマーチを叩き行進するのだが、彼が闖入して太鼓を刻むと徐々にテンポが崩れいつの間にかワルツ(しかもウインナー・ワルツ⁉️)になってしまうのだ🤭いとも脆い式典団結なのだ。庶民の建前と本音が見え隠れする、私が最も好きなシーンである。

彼がサーカス団で知り合った小人集団と特技を生かしてナチに加担して生き永らえようとするが、結局は戦火の犠牲者となる。このように、特殊な人だろうが何だろうが一切関係なく一度戦争に巻き込まてしまえば、全ての万人に戦火が及ぶ事の暗示のように思えてならなかった…。

レビューは、やや筋書き辿りの内容になってしまったが、それだけ背景が複雑化し作者の主題が矛盾に満ちた主張だと言える。しかし、そこに我々が読み取れる1つの哲学が存在している。
つまり、この作品は生々しい現実へ適度に順応しながら、逞しく生き永らえていこうとする市井の人々のリアルな現実物語であり、その中で歴史の波に翻弄される民族の話ではないか…それは、今のウクライナ状況を見て思い出し、いやヨーロッパやアラブのように…と思っている次第である。