アニメの『クレヨンしんちゃん』に『野菜がいっぱいだゾ』という傑作エピソードがある。
野菜嫌いのしんのすけが自分の家の冷蔵庫にある野菜を全部処分するという完全犯罪を目論むが最後に露見して破滅してしまうという内容。
タイトルは勿論のことラストの描写がまんま『太陽がいっぱい』のパロディーとなっている(流れる音楽もニーノ・ロータっぽい笑)。
パロディーで使われるだけあって、やはり本作のラストシーンは鮮烈な印象を残す。
本作の大成功は先ず何と言っても、人生の絶頂にいたトムが一気に破滅する瞬間を、ワンカットで表現したことだと思う。
青春殺人物語『太陽がいっぱい』はアラン・ドロンが一躍世界的なスターとなった記念碑的作品。原作はパトリシア・ハイスミス、監督はルネ・クレマン。
タイトルに“太陽”とある通り、ほとんどのシーンで眩い太陽の下でロケ撮影が行われている。
原作にはアメリカにてトムがフィリップの父から息子をつれ返すように依頼されるシーンがあるそうだが、作品の雰囲気にそぐわない為かカットされている。
それ故に、前知識がないとトムとフィリップの人間がいまいち判りにくいようになったと思う。
最初観た時はトムとフィリップの関係性って、一緒に留学している貧乏青年と金持ち息子って設定ぐらいにしか思っていなかったけど、何度か繰り返し観ることでやっと把握できた。
しかも前半、フィリップの友人が沢山出てくるのも人間関係を複雑にしている気がする。
この映画を淀川先生が同性愛の映画だと見破ったというのが有名な話。
ルネ・クレマンはかなり原作のゲイ要素をかなり薄めたらしいけど、本作の重要場面の一つである、フィリップの背広を着たトムが鏡に映った自分にキスするシーンが最も顕著にその匂いが漂っている。
フィリップの格好をしたトム(=フィリップ)が鏡に映った自分(=トム)にキスをするという、つまり、あの場面はフィリップへの変身願望と同時にフィリップから愛されたいという承認要求が入り雑じった非常に怖い場面なのである。
ちなみに淀川先生の見立てで個人的に好きなのは、ラスト、フィリップの手が出ていたのはトムの乾杯した手に呼応しているという奴で、思わずなるほどと唸った。
■映画 DATA==========================
監督:ルネ・クレマン
脚本:ポール・ジェゴフ/ルネ・クレマン
製作:ロベール・アキム/レイモン・アキム
音楽:ニーノ・ロータ
撮影:アンリ・ドカエ
公開:1960年3月10日(仏)/1960年6月11日(日)