ずどこんちょ

キングダム2 遥かなる大地へのずどこんちょのレビュー・感想・評価

3.4
隣国「魏」の侵攻が開始。信は本格的に歩兵として戦場へと歩み出しました。

前作と違って今回の舞台はほぼ全編、蛇甘平原における魏の大軍との戦いです。
荒涼とした平原における魏軍に奪われた丘を目指し、信が合流した第4軍は突き進んでいくのです。

今回から登場するキャラクターも良かったです。
まず信が出会ったのは、尾平、尾到の兄弟です。戦闘力はほぼ無い、歩兵の象徴的な存在なのですが兄弟で力を合わせて戦場に参加しており、兄は弟を、弟は兄を思い合っています。圧倒的な強さを誇る信に対して、彼らが平凡であるゆえに信の異彩が際立ちます。
歩兵だけで組んだ5人組の伍長になった澤圭は広い範囲で戦闘が行われている戦場において、戦況を客観的かつ分かりやすく説明してくれる、いわば解説要員です。

そして、歩兵を率いる千人将の縛虎申ですよ。
最初は戦場まで走り続けてきた信たちを即座に戦地へ出陣させて、なんて非情なリーダーなのだと思いましたが、すべては秦に勝利をもたらすため、戦場で勝利を収めるためだったのです。
信たちがわずかな戦力で丘のふもとまで突破した際には、騎馬隊を率いて合流し、丘の上まで突入していきます。
そして、敵の副将・宮元の元へ重傷を負いながら近付き、油断させた上で差し違えて副将を倒すのです。
彼はこの丘まで辿り着いたのは、まぐれや奇跡などではなく、仲間たちの死による橋を渡ってきたと考えていました。
決して歩兵をただの使い捨ての駒だと考えていた非情なリーダーなどではなく、彼は自分自身をも秦軍を勝利に導くための架け橋だと捉えていたのです。
信は縛虎申の心揺さぶる生き様を見せつけられます。

さらに本作から登場する新たなキャラクターが羌瘣です。
信と同じ伍に加わる謎の人物なのですが、窮地に立たされた時、危機を乗り越える見事な戦略と圧倒的な剣術を見せつけます。その正体は、殺し合いの習わしによって殺された姉同然の羌象の敵を討つため魏に向かう軍に参加していた者だったのです。
復讐に燃える羌瘣はどこか悲しい目をしており、信は羌瘣に生きる必要があることを伝えます。
羌瘣は一人、先に丘の上へと向かった信に代わり、戦闘力は並の歩兵レベルでしかない伍の仲間たちを守るのです。
羌瘣を演じた清野菜名がさすがのアクションを披露しており、ワイヤーアクションも駆使して鮮やかに敵を斬り倒します。
最初にリズムをつけてジャンプしながら呼吸を整えている時は、ちょっとワイヤーが邪魔をして重力に違和感を感じましたが、その後動き出してからは蝶のように舞って敵の目を翻弄する、柔らかで美しい戦い方を繰り広げます。
彼女がいたから、信は仲間の命を託し、背中を預けながら先に丘の上へと進むことができました。羌瘣は本作で強力な相棒として活躍しています。

ようやく丘を奪還してから先を見ると、なんとそこには敵将・呉慶の本陣が。先ほどとは比べ物にならないぐらいの大軍が待ち受けていたのです。
逃げ場のない丘の上。さすがの信であってもここまでかと諦めかけたその時、呉慶の本陣に突っ込んだのは秦の麃公将軍本人でした。

戦場に睨みを利かせにきた王騎将軍から、信は将軍とは何かを教えられます。
思えば、縛虎申の生き様を目の当たりにしたところから、信は戦場で采配を振るう責任というものを感じ取っていました。
戦場で将軍たちの知略と、勇猛さを目の当たりにした信は「天下の大将軍になる」という夢に一歩近付いていたのです。
これまでは夢物語を語っているに過ぎなかった信が、初めて戦場で将軍とは何かを身近で学びます。
風向きを見極め、好機を逃さず、人を動かし、勝利を収める。人の命がかかっている戦場だからこそ、将軍の器というものは感情優位の猪突猛進では成り立たないことを学ぶのです。
童・信が将軍の生き様を目に焼き付け、「大将軍になる」という言葉が夢物語から現実的な目標へと変わっていきました。

剣術を幼い頃から訓練し、大きな目標も掲げていた信。本作で初めて将軍たるものは何をすべきかを考え始めます。今回戦場には出ていませんが、前作から引き続き登場した橋本環奈演じる河了貂もまた、軍師になるという目標を見出していました。
本シリーズの続編がいつまで続くのかは分かりませんが、原作に沿って一歩ずつキャラクターたちが成長し、それと同時に秦国の物語も進展していくのはおもしろいです。
一気に駆け抜けず、丁寧に信の成長を描こうとする作り手側の意思を感じます。
今回の戦いで信は歩兵から異例の出世を果たしました。次の続編で信が何を学ぶのか、そしてどれほど大将軍への階段を登っていくのかが楽しみです。