このレビューはネタバレを含みます
とても繊細で、丁寧で、それぞれが抱え込んでいる感情を台詞にしないところがとても映画的で、情緒的だった。
原作は読んでいないが、階級ごとの人々の所作がとても細かく表現されていて、完璧に映像化されているのだろうと感じた。
初めて相手の家に挨拶に行った時のシーンとか、小汚い居酒屋で「化粧室」に行くシーンとか、その階級ごとの細かい所作を、部分だけではなくシーンとしても楽しめて、タイトルと表紙の雰囲気からの期待通りだった。
仕事で忙しそうな彼に「何でもはなしてほしい。」と言っていた彼女は、トマトを育てるように、2人で何かを築く為に、何でも話せるような心を許せる関係に憧れていたのかもしれない。
しかし彼も「大事な日には雨が降る」という事を、あまり人には言わないようにしていると言っていた。彼女にそれを打ち明けていたという事は、彼なりには心を開いていたのだと思う。
心は開いていたが、生まれた環境から、決まった道へ進む人生が、彼にとっては当たり前で、当然であるように育てられた。
「ある程度、遊んで来たけど、結婚して落ち着きたいと思っているエリートが良い。女に変な期待していないから。」
という台詞もあった。
立場のために結婚した訳では無い彼女にとっては、何も期待されていない事が違和感で、「結婚してくれただけで充分だ。」という彼とは、根本的に何かがズレていたのかもしれない。
初めて会った日に盛り上がった話題の映画も観てくれていない彼だったが、彼からすれば、「見返してみようかな。」としか言っていないし、約束なんてしていない。
そのほんの少しの違いが、大きな違いだったのだろう。
この監督の映画は、初めて観たが、2作目(?)でこの完成度は高いと思う。今後も追いかけたい。
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⬛︎印象的な台詞やシーンなど
⬜︎「結婚しても、いつでも別れられる自分でいたい。」
⬜︎「このカップ、ダサいんだけど、なぜか馴染んで飲みやすいんだよね。なぜか割れずに残ってるし。そういう食器ってない?」
⬜︎コンサートのシーンで、一階の演奏を二階から見下ろす彼と、階段の踊り場という、その中間に居るマネージャーとなった彼女。
⬜︎雨の日に、自転車で2ケツする彼女たちに手を振るシーン。