セサミオイル

あのこは貴族のセサミオイルのレビュー・感想・評価

あのこは貴族(2021年製作の映画)
4.6
もうほぼ5.0点ですよね。
途中からこりゃもう5.0点だわ…と思って観てました。最後もすっと終わって素晴らしかったです。
細かな演出がある。見落としがちなふとした事だし尺も短いし、中にはストーリーと直接関係なさそうなシーンにまで大正解といえるレベルの演出を入れている。そこまでするか!?という緻密な演出が施されたシーンが沢山あるんですよね。それらが積み重なってひとかたまりになって作品全体に邦画としてはとんでもないレベルのリアリティーを生んでた。
この点において満点なんです。
そこまでやってくれたからこそ感情移入や没入感に繋がった。
最新の映画でも名のある監督でも何があったの!?と言いたくなるほどずさんな仕上がりになってる邦画が少なくない中、本作は物凄く丁寧に創られてる。その丁寧さが監督の自己満足や「お前らこういう演出しても分からんだろ(笑)」みたいな欺瞞に満ちたものではなくちゃんと観客に見せる・伝えるという方向に向かってる。ここが素晴らしい。ありがたい。


石橋静河さんは演技のバケモノですね。邦画の感想書く時に演技という単語を使ったのは初めてです。所作が自然というのもありますが、シーン、シーンで脚本が映画が監督が観客に伝えたい事を最大限に伝えてると感じました。決められた動線を決められた速度で歩きながら覚えた台詞を相手役の台詞を受けて顔の向きや表情なんかも意識しながら滑舌よく喋る。基本をこなすだけでも大変だろうに常に貴族と一般市民の間にいる頼れる親友という難しいキャラをブレる事なく演じてた。

門脇麦さんはこれまでにいろんな役をこなしてきて今回はお嬢様。役作りの勝利ですよね。衣装やヘアメイクも合わせてお嬢様になり切ってて驚きました。

水原希子さんも良かった。
呼び止められて自転車を急停止するシーンが印象的。貴族との対比として東京で活躍するイケてる庶民という役が無理なくぴったりハマってた。爽やかな役どころも上手く演じてましたね。
また演出の話になりますが入学式のメイクが完璧でしたね。

貴族側の役者さんたちも皆が皆、そういう人にしか見えなくて感心しました。

幸一郎の男のだらしない面が発覚し女3人が集まるシーンでまとめ役の逸子が感情的になるのかなと思ったら冷静に淡々と話をすすめる。他の2人も取り乱さない。この方向性なのか!と膝を打った。これはこの先目を離せないぞと思ったシーンだ。

そんな訳で好きなシーンもいくつかあったし、ドキッとするような芯を食った台詞もたくさんありました。笑える台詞も自然な会話の中でほんとにタイミングよく発せられててちゃんとわらえた。
観客の意識下に対する巧妙な感情誘導なんかも随所にあったんじゃないかな。
かなり高いハードルを越えた作品だなとおもいました。