浦切三語

キングダム・オブ・ヘブン ディレクターズ・カットの浦切三語のレビュー・感想・評価

4.1
再鑑賞。
無神論者で知られるリドリー・スコットが聖地エルサレムを巡る十字軍とイスラム世界の衝突を通じて「信仰」について撮った映画。思うにリドリー・スコットは「宗教上における象徴としての神」そのものを信じていないのではなく、劇中のギーやルノーや司祭のように「異教徒殺しても神様が許してくれるもーん!」と、自分たちに都合の良いかたちに神の存在を利用し、本来の目的を形骸化させることで神の価値を下げる者たちのことを蛇蝎のごとく嫌っている。言い訳や負け惜しみに使われる神、都合の良い時にだけ持ち上げられる神、狂信者たちの頭の中で際限無く肥大していく神。その醜さが聖地を汚し、無数の血や屍となって戦場を埋め尽くした映像となって焼き付く。だからこそ「神の意思」と「人の意思」のどちらも真摯に理解しようと務めるバリアンとエルサレム王、サラディンのキャラがめちゃくちゃ立ってる。

だけれど、エルサレム王、サラディンのキャラ立てはともかく、バリアンのキャラ立てはほとんど異質なものだと思う。もともと高潔な人物だったんだろうが、寂れた村の鍛冶屋がイベリンの領主に「いきなり」なってしまったような描写をされていて、その急激な環境の変化を当然顔で受け入れているような演出がなされている。ゆえに違和感が物凄い。物凄いんだけど、その「違和感」こそが、バリアンの本質に近いものなんだろう。


大河ドラマをぎゅぎゅっ!と濃縮したような濃さなので、観終わった後はすんごい疲れる映画です(笑)
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