【ジャック・ロジエ、グダグダ茶番劇のスペシャリスト】
レトロスペクティブ上映が熱い2023年にジャック・ロジエがやってきた!ジャック・ロジエ自体は数年に一度のペースでレトロスペクティブが組まれており珍しくはないのだが、今回はフランスルートでも入手が困難な『フィフィ・マルタンガル』が上映される熱いラインナップとなっている。早速ユーロスペースで観てきたのだが、相変わらず豊穣なグダグダ茶番劇であった。
いきなり、うぁ!前から車が!と事故が勃発。事故の原因となったおじさんは、書類を出そうとするように見せかけて逃走を図る。カーチェイスになるわけでもなく、とてつもなく遅いやり取りにジャック・ロジエらしさを感じる。彼の映画はいつだって大惨事が起きているのに、ゆったりしたスピードで進むのだ。どうやら演劇の練習が始まるのだが、これが頭を抱えるほどの茶番で、ピザがどうこうと延々と語る。そして全くもって完成形が見えないまま、登場人物はカジノへと繰り出してしまう。演劇はひたすら失敗の気配がするのに、カジノでは小手先の目押し術で儲けが発生しており、そのギャップにじわる。だが、そんなグダグダにも終わりが近づいてくる。本番だ。終始、茶番な練習が続いていたため、イルミネーションアニメ『SING』以上の修羅場を迎える。役者は全然セリフを覚えていないし、アクシデントが右から左からやってくる。だが、そんなアクシデントこそが人生の醍醐味だと客席からドッカンドッカン笑いが起きてくるのだ。
なんでも効率化の時代になった今、この豊かな停滞とそれを受容していく観客のリアクションを観ると心が温まる。ジャック・ロジエは素晴らしいグダグダ茶番劇監督だと改めて思ったのであった。