カツマ

メルテム 夏の嵐のカツマのレビュー・感想・評価

メルテム 夏の嵐(2019年製作の映画)
4.1
搔きわける海の水面に消える影。その雄大な景観は優雅なおもて面の裏側に、出口なき悲しみの輪廻を映し出す。ひと夏のような出会い、それが青春時代のように淡いだけなら良かったのに。うら若き青年たちの視点から、ヨーロッパに潜む暗部に手をかける、ヒリヒリと焼きつくような痛みばかりが疼いていた。

オンライン開催となっているEUフィルムデーズの作品リストの中で、一番の冒頭に紹介されている作品が本作だ。ギリシャのレスボス島を舞台に、難民問題へと大胆にスポットライトを当てた問題提起型のドラマ映画である。製作国はフランスとギリシャの合作。娘と義理の父の交流、そして青い恋を仄かに散らすことで、若者たちの青春群像劇としての側面を保ちながら、難民問題への切っ先を鋭く突きつけてくる、甘みと苦味、どちらも強い後味を残す作品だった。

〜あらすじ〜

ギリシャに住む母親の死から1年後、フランスに住むエレナは、美容学校の友人ナシムとセクーを伴って、ギリシャのレスボス島へと降り立った。そこには母と同居していた義理の父親が住んでいるも、エレナとはギクシャクとした関係性。しかも、母の死に際して、義理の父が住む屋敷はエレナのものとなるはずであった。
そんな道中、レスボス島に散見される移民たちの姿。ここにはシリアからの難民が次々と雪崩れ込んできており、その際に海で溺死する人も後を絶たなかった。
エレナたちはそのことに関して決して興味深く注力していたわけではなかったが、エリアスという難民の青年との出会いが徐々にその心の内を変えていき・・。

〜見どころと感想〜

エレナの母はトルコからの移民。ナシムはアルジェリア系フランス人、セクーはアフリカ系のフランス人。エレナたちが出会うエリアスはシリアからの難民だ。そんな人物設定からも滲み出る人種の坩堝としての欧州。深刻な難民問題を抱える欧州諸国において、島の人口以上の難民が押し寄せたというエーゲ海の美しい島、レスボス島はその象徴的な土地だったろう。難民の死は当たり前のものとなり、もはやそれはこの島での日常となっている。

そんな舞台設定全てが難民問題へと向けられながらも、エレナと亡くなった母との間に横たわる、未だに拭えない葛藤。母への不満は義父との不和へも繋がり、今作はエレナの家族問題の再生物語としての役割も負う。淡い恋の匂いも感じさせつつ、それらの要素を見事に87分という短い尺に収め切った作品だった。

監督には流暢な日本語を話すバジル・ドガニス。公開されたメッセージにもある通り、彼自身もまた主人公のエレナと同様にフランス育ちのギリシャ人であり、その彼の出自から来るフランス語、ギリシャ語の入り乱れる描写は実にリアルに描かれている。少しの英語も交えつつ、言語からも彼女ら彼らのアイデンティティを読み解くことも可能であった。

本来ならば国立映画アーカイブにて劇場公開されるはずだった本作。今回の映画祭の看板作品の一つとして実に見事な完成度を誇っていたのて、是非とも劇場公開まで漕ぎ着けてほしい。未だ出口の見えぬ難民問題のリアルを届ける例としても、少し切ない成長物語としても、傑出した出来の作品だったと思いましたね。

〜あとがき〜

『ビッレ』に続いてのEUフィルムデーズからの鑑賞で、こちらはギリシャ代表作品ですね。レスボス島の美しい風景に溶け込むように沈み込む闇。それらを若者からの視点から描き切った意欲作だったと思います。友人たちのやりとりもコミカルで、上映時間も短いため、比較的見やすい作品でしょう。EUフィルムデーズは今月25日までなので、あまり時間は無いですが、観れる方はぜひご覧になってみてください。
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