木蘭

GAGARINE/ガガーリンの木蘭のレビュー・感想・評価

GAGARINE/ガガーリン(2020年製作の映画)
4.3
 パリ郊外に存在したガガーリン団地と少年たちを描いたフランスの美しいジュブナイル団地映画。

 人の作り出した最も美しい物は建造物、殊に住宅と、それを繋ぐ移動システムだと思うんだが、老朽化して解体直前だったとは言え、1961年当時の最もモダンでシックな建造物で人類の夢を乗せたガガーリンの名を冠した団地を、まるで宇宙船の様に美しいカメラワークで写し撮っていく・・・もうそれだけで感動的。
 そんな多くの人の夢や人生を宿したまま死にゆく老人の様な団地の体内で、母親に見捨てられた少年ユーリの恋や友情、愛への渇望と悲しみを軸に、団地と共に歳を取った人々の人間模様が、時に幻想的に描かれる。

 うち捨てられる団地は母親に捨てられた主人公ユーリの様であり、彼自身は大切な物を全て詰め込んで、あこがれの宇宙と未来に飛び立たせてくれる宇宙船の様に夢想するけれども、実は団地こそが飛び出した宇宙から眺める地球だったりする。
 今や団地はスラム化して「郊外問題」としてフランスの社会問題となり、多くの住民は発展から取り残された移民や低所得者層、犯罪や麻薬の問題が頻発している。現に、主人公達は移民のマイノリティだし、ユーリ以上に団地に固執するダリ(トルコ系か?)に至っては麻薬の売人だ。
 それでもカメラは彼らを社会の縮図として、宇宙から眺めた地球の様に美しく優しく描き出す。

 団地と住民を美しく愛しく描くのは、確かにあった共和国と共産主義の理想からであろうし、監督達のエリートとしての傲慢さかも知れないが、それでもここにはガガーリンの名前を冠した団地の夢と、人々の愛が刻まれているんだな。
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