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GAGARINE/ガガーリンのminamiのレビュー・感想・評価

GAGARINE/ガガーリン(2020年製作の映画)
3.0
上映時から観たかった作品だったんだけど逃してしまって、TAMA映画祭で観る機会ができてよかった。

団地が舞台の話なので、上映後は「団地団」という、フィクションの中で描かれる団地について語る会(当日のメンバー談)の方々のトークセッションもあり、団地になじみのなかった私も少し知見が深まった気がした。

彼らいわく、団地が宇宙とつながるのはフィクションでは「よくあること」だそうで、いわば住み慣れた場所から遠く離れた宇宙を想うのは、殻を破ろうとする少年期独特のモラトリアムみたいなものなのかもなぁと思ったり。

この作品は市長全面バックアップで、実際にこのガガーリン団地に住んでいた方がエキストラで出演されているそうで(主要人物以外はみんな住民とのこと)、みんなで日食を見たり、体操をしたりする様子はほっこりする。

日本でも東京オリンピックを理由に2017年に霞ヶ丘アパートという団地が取り壊されたらしいけど(しかもそのアパートが建てられた経緯は1964年の東京オリンピックにあり、周囲から立ち退きを余儀なくされた方々のために建設され、なのに2度目の東京オリンピックの際にまたそこから立ち退かされるという……いやいやちょっとひどすぎない?)、こうした光景が大人の事情で消されてしまうのはいかがなものかと思った。

映画としてよかったのは、説明台詞のないところ。
ガガーリン団地周辺は多様な民族性があり、いろんな言語が飛び交うのだけど、主人公が聞き取れない言葉は劇中べらべら会話が続いていても一切字幕なし!
容赦ないほどの取捨選択が心地よい。

日本はハイコンテクスト文化だから(しかも私の場合、文章書きだからというのもあるかもしれない)つい言葉で意思疎通をはかろうとしがちだけど、本来コミュニケーションって伝わらない言葉はそのままにしても、もっと大きななにかが伝わったりするものだよな、なんて思った。

主人公のユーリ(ガガーリンと同じ)はもちろん、ディアナ(ローマ神話に出てくる月の女神の名前)、ライカ(犬)と、わかりやすく宇宙に関する名前をちりばめてくれており、しかもディアナは月でありながら、クズ鉄屋のおじさんに「俺の太陽」って呼ばれていて、それなら地球はなんなのだろうなと考察するのもおもしろい。

そういえば、このクズ鉄屋のおじさんが『ポンヌフの恋人』のドニ・ラヴァンだって!?
しかもディアナはいまをときめくリナ・クードリ。
新旧フランス名優がストーリーの冒頭で同じ画面に存在するというのもアツい。

この映画は実在するガガーリン団地が取り壊されるまでの記録映画でもあり、新旧仏名優を同じ画面に映した映画史的に重要な作品でもあり、そしてロマンティックなファンタジー作品だった。よい。
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