戎

Summer of 85の戎のレビュー・感想・評価

Summer of 85(2020年製作の映画)
4.5
本当のことしか言ってなかった。
まずオレンジの文字と映像の色合いで一気に引き込まれた。音楽の使い方と過去と現在のシーンのつなぎ方が変わってるなと思った。お気に入りのシーンはストロボみたいなクラブでのダンスシーン。そこからSailingが流れているあいだ、なぜかずっと泣いてしまった。私の今の気持ちと結び合わせてしまってよけいに辛かったんだと思う。だからこの辺りのことはよく覚えていない。愛は美しいけれど、ひとりで抱えきれないほど大きく、重くなってしまうときもある。
終わりの解釈については人それぞれ意見があるだろうけど、私は人が生きていくために過去を乗り越えて新たな波に乗ることは絶対に必要だから、そのために新しい出会いって絶対に必要なことだから、ああしかないと思った。ダヴィドの死に向き合えたからできたことだと思った。見終わったあとエンドロールの曲について友達と話したけど、その子の解釈がとてもいいなと思った。
ケイトの「あなたが恋をしていたのは、彼ではなくあなたが作り出した幻想」という台詞、グサグサに刺さってしまって、でもそういうことを言われるたびに私は本当の"その人"なんか好きな人でも他の友達でもわかることはできないじゃないかと思う。言い訳かもしれないけど。ただ一枚一枚ベールを脱がせるように、少しでもその人の真ん中に近いところを知りたくてもがいているだけだ。
「本当に良いライブとは、観客を目の前のステージに集中させるのではなく全く別のことを考えさせられるライブである」みたいな話をどこかで聞いた気がするが、私はこの映画を見ながらずっと自分の恋愛について考えていた。感情移入というよりは、全く同時に好きな人のことを思い出していた、というのが正しい。それにその人がこの映画を見たらどんな話をしてくれるか気になった。その人が死んだらどうするかってことも。よくそういうことを考えるから、アレックスがしたことには共感とは言わないまでも理解はできた。私もきっと何もかも終わりだと絶望してしまうし死のうとするだろうし(そんなことをしても意味がないとわかっていても)。だから死んでほしくないな。
私は私の物語を生きていきたい。
戎