シーケー

Summer of 85のシーケーのネタバレレビュー・内容・結末

Summer of 85(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

とても美しいストレートなメロドラマだった。そして水辺を舞台にした水辺映画として本当にすばらしい。
フランス映画で一夏の恋の話なら強い日差しの南仏の海を思い起こすけれど、本作はフランス北側のノルマンディー地方、美しくも影のある海であり、原作小説の舞台のイングランドと近い雰囲気として選ばれた経緯がある。
物語冒頭、主人公が1人でヨットでこぎだす海も晴れた中波打っていて不穏だ。夕立からのおそろしい転覆、運命の出会いの後、岸に戻る二人を石垣のような古く美しい突堤が迎える。
水辺映画として主役の砂浜はたぶんこじんまりとしたものだ。奥には地中海的ではない急峻な崖がそびえ立っている。気持ちよく座れそうな防潮堤でケイトと出会い、また再会を望めるのもこの小さな海辺空間ならではのことだろう。街にいる時は海が見えるようなコンパクトな箱庭的感覚。働くショップや先生と話す海の見えるレストランは日本人的には「映える」けれども何か地中海的なそのものではなく憧れのようでもある。
水辺以外の話で恐縮だが、この距離感は気候と服装にもあらわれていて、外で水着になることができるけれどずっと薄着なほど暑くはなく、脱いで水着になるような気候。それがたくさんの場面に出てくる上半身裸を生々しくしている。
水辺に話を戻すと、「干潮だからビーチで泳ぎたい」という酔った男性をダビッドは夜の砂浜に連れて置き去る。アレックスを帰してから再度会いに行って砂浜の一夜に至るのも夜の海の魔力のようだ。
ラストシーンでは海岸を清掃することで魂を取り戻し、主役のビーチで防潮堤の上で再び酔った男と出会い直す。誘う先もダビッドのヨットで、出会いの場所であり残された唯一の繋がりの品であり、次の恋に進む象徴ではあるけれど、「全ては海のせい」といえる水辺映画の終わりとしても申し分ないものだ。