空海花

Summer of 85の空海花のレビュー・感想・評価

Summer of 85(2020年製作の映画)
4.5
ノルマンディーの港町
青年と少年、若さゆえの避暑地の恋は儚く
オゾン的『君の名前で僕を呼んで』かと思いきや(いやある意味そうとも言えるのだが)
この物語にはその先がある。
いや、むしろ無いともいえるが
別の何かがあるということ。

原作はエイダン・チェンバーズの小説「Dance on My Grave」(おれの墓で踊れ)
1982年に出版された、同性愛を扱った最初のヤングアダルト小説の一つ。
オゾンが17歳の時に出会い、約35年の時を経て映画化。
良いキャストが見つからなければ映画化は止めようという監督の強い思いの中
その役を射止めたのは
アレックス役のフェリックス・ルフェーヴル。
リバー・フェニックスの面影に似た美青年。
ダヴィド役のバンジャマン・ヴォワザンも彫刻のような美貌。
少し歪むセクシーな口元には眩暈がしそう。
『マイ・プライベート・アイダホ』のようなシーンも。

自身の青春時代を投影した映像
まさに1985年のファッションや音楽が瑞々しく甦る(85年のフランス、体感したことないけれど笑)
The Cureの「In Between Days」
16mmフィルムの粗さの中の鮮やかさがノスタルジックで美しい。
また、ストーリーの中にある数々のモチーフは、これまでの監督作を思い出し、
どれだけこの原作がオゾンの中で煌めいていたのだろうと静かに感動する。

“恋”と記したが、少年時代のその境界は危うい。
その頃の愛しさは、話したくて、一緒に居たくて仕方ない
その欲求は必ずしも恋人ではなかった気がする。
“理想の親友”
アレックスも何度かそう表現するし
ダヴィドの母さえも使うそのワードに想いを馳せて。

“ボーイミーツボーイ”ではあるけれど
一夏のボーイズラブと思って敬遠するのも、観るのももったいない。
青春時代の原石のような豊かな情感が描かれた傑作。

【追記】
別の場所で透けた黄色い封筒に入ったパンフがお洒落だったので遅れて購入。
具合悪くやっと開封。
原作者の方は85歳で映画化され、出来も気に入り感無量といった様子でまた感動。
パンフ内インディゴブルーのフォントと写真がまた素敵。
ポストカード4枚入り。しかも映画と同じフィルムの粗めな質感がまた良し。
¥1,000高めだが大満足⭐


以下恒例長めのネタバレ含む感想⚠️


“死に魅了されている”
死への憧れは若さゆえ、と何でもかんでもその言葉のせいにする訳にはいくまいが
アレックスは自身をそう思っていた。
未知のものへの興味のようなものとか
大人になると片付けてしまうが
少年にとっては恋愛と同じく、形のないものでどこか美しいもののように思えたのかもしれない。
あるいは必要以上に怖ろしく思えたり
そのイメージは一定ではない。
若者は生気に満ち溢れているようで
一方でそれだけではない。
“美人薄命”という言葉は若いときどう写るか。
美しく穢れのないまま記憶に残されることを。

ダヴィドのまるで生き急ぐ疾走感は
若者に悲しいほど似合ってしまう。
そして許し難いほど美しい。
だからアレックスは惹かれたのかもしれない。
冒頭より“死”があるものとしてスタートしていくところ、ミスリードのない構成
そしてその後の甘い幸せな時間もダヴィドにはその翳りが付き纏う。
母の不思議な雰囲気もまたどこかあやしく、ダヴィドの過去に秘めたものを感じさせる。
極めつけはあのコームではないかしら。
あのアイテムは彼をとても表しているように思う。

ダヴィドがクラブでアレックスだけに聴かせた
ロッド・スチュワート「Sailing」
陶酔するような美しいシーンでありながら
アレックスが不安定に漂うようにも見える、印象的なシーン。

感動的なのは
最初の公判では何も言えなかった彼が
小説に著すことによって
ダヴィドと再び会おうとするところ。
それが死と向き合うことになり
喪失感や自身とも向き合うことになる。
初体験は一つではない。
失恋や永遠の別れからどうしたら立ち直れるのか。
若い時間は一瞬一瞬が煌めきなのに
時間が解決するなんて途方もないことは言えない。

アレックスが激しく嫉妬したのは、
相手が女性だったからかもしれない。
罪のように感じたのかも。
ケイトもとても良い子なのが良かった。
彼が死体安置所や墓場で“発作”を起こしたのは
最初に“死”に魅了されていたと語ったが
彼女とのキスが、それを分解したように思った。
王子ならぬお姫様のキス。
罪のような背徳感のような…
ダヴィドと重なるアレックス。
彼女もまた友達。
そしてようやく、墓の上で踊れる。

小説を書いているのにその言葉はごく一部。
彼の口調は冷静だ。
感情は行動においてのみ豊かに表れる。
メルヴィル・プポーの風貌には少し驚いたが、教師の彼も過去を匂わせる。
本作はこの夏以外のことを多く匂わせて、私たちに委ねるが
私たちもまたオゾンの描く青春時代の情感に身を委ねたくなるのだ。
『ドライブ・マイ・カー』は発声はなくとも言葉の洪水であったが
フランス映画の言葉の吐露のない波に揺蕩う感覚もまた幸せ。

アレックスはまた恋をする。
これがその先があるが、その先は無いの答え。


2021レビュー#160
2021鑑賞No.358/劇場鑑賞#60


実は『OLD』から続けて観たのが、
ストーリーは関連しないけれど、すごく良かった⭐
余韻なんてもんじゃない、この日の多幸感はヤバかった…
最近前より鑑賞ペース落ちてしまったので、観る度感受性が過多です(笑)
空海花

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