よか

Summer of 85のよかのネタバレレビュー・内容・結末

Summer of 85(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

真夏の海の水面の反射を直視出来ずに薄目で眺めるような、そんな印象の映画。
少年と青春の輝きや鮮やかさ、愛おしさがあり、余りにも眩しくて美しいのに、その美しさが苦しくて直視出来なかった。

まだ何者でもない少年アレックスの心情が、徹底的な一人称視点とフィルムの鮮やかな映像で描かれていた。
神々しいまでに美しいダヴィドと、終始寄り添うアレックスの未熟で可憐な笑顔。美しいはずのスクリーンには終始、不穏な影が潜む。
夢のように美しい青年に溺れたアレックスが彼に己の理想像を期待してしまうのは必然のように思えるし、実際私たちもその感覚に心当たりがあるはず。

美しくも苦々しい恋の果てに突然訪れる死。
全てを受け止めきれず、けど理解しようと必死になるアレックスの葛藤。アレックスの言葉にならない数々の衝動は徹底的な一人称視点の映像が物語り、自分自身の10代の感覚も呼び起こしてくれた。
手記という形で必死に自身と格闘する彼を見て、書くということは何と難しい事なのかと思った。結局こうして言語に表せることなんて思いのうちの数割にも満たなくて、何かを伝えるということの崇高さと儚さが身に染みた。

語られていることは全てではなくて、ダヴィドの感情や行動の動機、死についての真実が明かされることもなく、約束の意味すら分からずじまい。結局ただ彼らがそこに在ったことが紛れもない事実であり、彼らの過ごした6週間の夏も、意味も分からず交わした約束も、変わりようがなくただ存在していた。それだけが真実なんだなと思った。
どれだけ美しかろうと、過ぎ去った過去に何かを求めるのではなく、過去は過去として先に進むしかないのだと、優しく諭されたような気がして涙が出た。

運命を、自分をどこかに連れ出してくれる人を、人生の答えを恋愛に求める未熟さ。
そんな人間はどこにもおらず、結局のところ人は孤独であるので、自分は自分になるしかないのだということ。
他人に何かを求めるのではなく、揺るぎない自己を確立することが愛であるというあまりに苦々しい事実が胸に痛い。
成長は痛みの伴う諦めの連続であるなと感じたし、慣れたはずのその痛みが美しい映像によってあまりに鮮明に蘇るものだから、やっぱり涙が止まらないのでした。
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