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FLEE フリーのおはぐのレビュー・感想・評価

FLEE フリー(2021年製作の映画)
4.6
アミン・ナワビという仮名で呼ばれる男性が祖国アフガニスタンから脱出した過去を、親友である映画監督に初めて打ち明ける様子をアニメーションを用いて描いたドキュメンタリー作品。アミンや彼の家族、関係者の安全を守るために全編アニメーションで制作された本作は、第94回アカデミー賞で国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞の3部門ノミネートを果たした。
第94回アカデミー賞でノミネートされてから、劇場公開する日をずっと待っていました。1時間半の上映時間がとても長く感じられ、アミンが言葉を選びながらポツリポツリと語る過酷な過去、国から逃れた現在もなお付き纏う苦しみなどを思うと胸が苦しく、観賞後は心にズシンと重りが載せられたような気持ちで帰路につきました。
本作は全編アニメーションでありながらも、ジャンプカットや手持ちカメラで撮られているようなカメラワーク、少し甘いフォーカスで描かれるショットなど実写作品を思わせる技法が効果的に使用されています。また、当時の国際情勢や政治情勢を映し出すために時折実写の記録映像を挿し込むなど、アニメーションという枠を超えた様々な技法を用いることでアミンの繊細な心情を丁寧に描き出していたと感じます。加えて、本作はオープニングで逃げ惑う人々の足音をはじめとし、アミンと監督のやり取り、アミンがボーイフレンドと2人で居る時の環境音など他多くのアニメーション作品以上に“リアルな音”に溢れ、音作りにもこだわりを感じます。ドキュメンタリー的演出とアニメーション的演出を上手く組み合わせ、まるで現実とファンタジーの狭間にいるような不思議な感覚に包まれる工夫の数々が本当に素晴らしかったです。
生まれ育った故郷から逃れ、逃れた先でも過酷な状況に追い込まれるアミンと彼の家族が受け続けた心の傷、トラウマは計り知れません。この先どれだけ長い年月を経ても、アミンの心の中には疎外され、追放された辛い記憶が心の奥底に残り続けると思います。この作品内で自分の過去と初めて向き合い、聴き手となった監督をはじめとした観客たちと自分の物語を共有したことが、彼や彼のような体験をした方の未来に一筋の光を与えることを祈らずにはいられません。
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