げげげんた

FLEE フリーのげげげんたのネタバレレビュー・内容・結末

FLEE フリー(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

アフガニスタンに生まれた男性、アミンが紛争の影響で亡命希望者となりロシア、そしてデンマークに行き着くまでの半生を語ったドキュメンタリー。

難民としてみとめられるまでの道のりは、モスクワの警察との一幕(イベントを見に行った所運悪く警察に捕まってしまうが、もうひとり女性がおりある意味”引き換え”的に解放される)や、船での渡航を試みるもふたたび送還されるなど、言葉では言い表せられないほど金銭的・体力的そして精神的に過酷なもの。難民認定を受けられたとしても、異国での生活は困難がつきまとう。
そして、「同性愛者が存在しない国」アフガニスタンで生まれて幼いころにゲイを自覚したアミンにはさらにその苦悩がのしかかる。

そのようなきわめて困難な状況の中で、「家族のために」というそのひとつだけが生きる理由になる。先にスウェーデンに移住していた兄が清掃の仕事をし、そのためにパートナーとの子供も諦め、なけなしのお金をすべて亡命費用に充てたし、また詳しくは語られなかったもののアミンに学歴をつけさせるために家族は相当な犠牲を払ったことだろう。

また、アフガニスタンで紛争が激しくなりいつ軍隊に連れて行かれるかわからない状況、ロシアで好き勝手警察に金品を奪われる、亡命中小さな船やトラックに押し込められたり、外に出ることが許されない、亡命がうまくいっても家族と会えないどころか生きていることさえ伏せなければならない、などといった出来事は、まさに自由や権利がない辛さを端的に表している。私には想像しても到底体感するには至らない辛さで、こんな辛さを何回も何年間も耐えないといけない人が世界中にたくさんいる状況は絶対におかしい。

少しだけ希望を感じたのが、アミンが兄弟たちに女性に興味がないとカムアウトするシーン。アフガニスタンは同性愛に対して受容的な国ではなく、ゲイやレズビアンだとわかると家族の恥だといって暴行したり殺害するケースもある中、お兄さんが怒ったり「まだ女を知らないからだ」と風俗店などに連れて行くのか、アミンの生きる理由のひとつでもある家族との絆が切れてしまうのかとヒヤっとしたが、ゲイクラブに連れて行ってくれてお金も握らせてくれて良い兄だった。イスラム圏などLGBTに弾圧的な社会でもこういう人が増えるといいなと思う。

最後に、アニメーションにすることでアニメにしかできない表現を可能にし、またプライバシーを守るという手法はとても見事で、やり方こそ変えたもののテクノロジーで顔を変えた「チェチェンへようこそ」に通じるものがある。主人公はデンマークで難民として認められパートナーと長く住んでいるものの、今でも100%安全とは言い切れないのだ。アニメーションであることもこのドキュメンタリーが注目された理由の一つでアカデミー賞や様々な映画祭で受賞したが、これをきっかけに、難民や紛争の問題に関心を持ち、解決に向けて行動する人がさらに増えることを願う。
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