ちゅう

はりぼてのちゅうのレビュー・感想・評価

はりぼて(2020年製作の映画)
4.1
綺麗な言葉で取り繕う政治家たちの実際は、どうしようもないくらい腐敗していて内実のない”はりぼて”だった。
富山市議たちの不正を暴いたチューリップテレビが制作したドキュメンタリー。


僕がこの作品を観て本当に素直に思ったのは、この”はりぼて”の問題は政治の世界だけじゃなく日本のいたるところにあって、僕やあなたも”はりぼて”なのかもしれない、ということだった。

日本人は集団主義的で利他的だと言われることが多いけど、実は、日本人が集団主義的に振る舞う動機は他人のためではなく、自分が所属集団から制裁を受けないためであることが社会学者が行った実験で明らかにされている。

逆に言えば、何をしても周りの人から制裁を受けないのであればとても利己的に振る舞ってしまうということだ。

そんなの日本人じゃなくてもそうだろうと思われるかもしれないけど、これは個人主義的なイメージの強いアメリカ人と比較した実験で得られた結果なのである。
少なくとも”あの”アメリカ人より利己的であることは間違いないようだ。

このことを知って、僕は、日本人が集団主義的という表面的な行動に内実が伴っていない”はりぼて”なんだと思わずにいられなかった。
であるならそんな日本人の政治家が”はりぼて”であってもなんの不思議もない。

選挙で落とすことが政治家に対する唯一無二の制裁なのだけど、政治に無関心な僕たちにはそんなことできるわけもなく、政治家の利己的な振る舞いを止めることなんてできそうにない。

なるべくしてなってしまっている日本の現状を直視するのは苦行でしかないから、この映画のように喜劇にして笑おうとするけれど、僕にはとうてい笑えなかった。


そして、この映画のもっとも暗い部分が、このドキュメンタリーを監督したチューリップテレビの記者の二人が一人は異動になり一人は退職したというところだ。
これはおそらく見せしめ的なものだろう。
おかしいことをおかしいと訴えるとこういう目に合う。

僕は羅生門のレビューで”人はどうしようもない存在だけど美しい部分も持っている”というようなことを書いた。
たぶんその美しい部分を引き出していく方法はいろいろあって、たくさんの人の美しい部分が社会のいたるところで表出されれば、この世界はもっとましなものになるはずだと思っている。

けれど、日本の組織はそういう美しい部分を面倒なものとして排除する。
これでは、自分の信念を持って本当に利他的に振る舞おうとしても後が続かない。
僕が人に希望を持っているにもかかわらず、日本社会に絶望を感じてしまう最も大きな要因がここにある。

非常に暗澹たる気分になった。


それでも、このご時世でテレビ局がここまで政治に深く踏み込んだことは賞賛に値する。
これがジャーナリズムの本懐なのだよ。

先行きが暗い社会であるから気分は滅入るけれど、それを正確に表現するのは至極まっとうだと思う。

メディアは大衆の目だ。
その自覚を持って、他のマスメディアもこの映画のようにきちんと社会の実像を映し出してくれることを願っている。
ちゅう

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