Nekubo

アーカイヴのNekuboのレビュー・感想・評価

アーカイヴ(2020年製作の映画)
3.5
低予算をカバーする雰囲気作りとヴィジュアルセンスにより作品の味わい深さをも感じさせる見事なSFスリラー映画。それに加えて監督の「押井守の攻殻機動隊がやりたかったんだよ!」がそこはかとなく伝わってくるちょっとしたボンクラさも尚良し。

交通事故により妻を失くした主人公ジョージは”アーカイヴ”なるサービスを利用し、データと化した妻との”本当の余生”を過ごしている。本当の余生…そう、アーカイヴのシステムは永遠なものではなく、データと化した亡き人の”最期の眠り”というタイムリミットがあるのだ。当然そのことを知っているジョージは、ただ単に妻を失った寂しさからアーカイヴを利用しているのではない。科学者でもある彼がアーカイヴを利用する目的それは…アーカイヴ内の妻のデータを抽出し、妻の姿そのもののアンドロイドにそのデータを移植することで妻を甦らせることだったのだ!

…という大まかなストーリーのもと、要はアンドロイドに意志はあるのか?あるとすればそれは尊重すべきなのか?命とは!?みたいなものを投げ掛けてくるタイプの映画なのである…表面上は。決して目新しくもないし、散々ぱら語り尽くされてきたであろう題材でもあるのだけど、この映画に関しては最後の最後で「そういうことじゃあねえんだよ!」と観ている者を突き放してくれる展開が待っている。

また冒頭で伝えたとおり、作品全体に漂う雰囲気作りやヴィジュアルセンスは抜群に良い。まるで主人公の哀しみと狂気を表すかのような寒々しい景観、妻の姿を模したアンドロイドの美しさ、所々に見え隠れするSF的ギミックのデザインの渋さ等々。そして実はこの映画、CGの使い方がなかなかに粋なのだ。例えば作中には人型のロボットがいくつか登場するのだけど、基本的に彼らは着ぐるみで表現されている。そしてストーリー上で彼らの下半身が失くなったり、脚の形が変わったりするといった場面になると下半身や脚のみをCGで処理するといった手法をとっている。こうした面からも本作が低予算であることをカバーできている点においては、SFギミック監督としては実に素晴らしいのではないか。

…だが、どうしたってオタクの嗜好だけはカバーしきれていないのがこの映画の難点でもあり、愛嬌でもあり、いまいちSFジャンルの高みに行き着けていない所以。

例えば亡き妻の姿そのままのアンドロイドが完成されるシーンなんかはまんま押井守だし、そもそもストーリーのキーとなるアーカイヴの本体なんて『マクロスプラス』のシャロンに似てる気がしなくもない。当然ながら『ブレードランナー』のオマージュも盛り沢山だ。ここまで”あからさま”なものを観て楽しく感じられるなら良いのだけど、正直に言って、逆に冷めてしまう人にとっては大きなノイズとなってしまうであろう。私は大好きなのだけど…。

客観的にこの映画を捉えればそれは、観る人によっては全体的に消化不良だったり、無駄なシーンも多くて単調だし、結末に関しても怒る人はいるであろう。しかし私はあまりそうは思っていなくて…結末に至るまでの単調な運びといい、そしてそれをすべてなかったことにする結末といい「見事!」と言いたくなるくらい楽しめてしまいました。
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