半兵衛

未亡人 初七日の悶えの半兵衛のレビュー・感想・評価

未亡人 初七日の悶え(1993年製作の映画)
3.8
現代に蘇りし河内山宗俊のような主人公の生臭坊主(佐野和宏)が、バブルの影響が残る東京で主人公が想いを寄せているヒロインの亭主を殺害し家の土地を奪わんと暗躍する地上げ屋に一泡ふかせる活躍を描く痛快エンタテイメントピンク映画。全体的にお話は山中貞雄の『河内山宗俊』をパクった…もといオマージュを捧げた内容になっており、地上げ屋の用心棒(下元史朗)のキャラクターや彼と主人公の出会い、最後の台詞などはモロ引用している。

瀬々監督らしくアナーキーな登場人物が色々と登場してひっきりなしに画面をうごめくが、土地買収とその裏にある死んだヒロインの亭主が隠した書類をめぐり彼らの行動がドラマと結びつき、ラストの悪党退治へ自然と流れ込む語り口は見やすく仕上がっていて後年商業作品で活躍する監督の手腕を垣間見る。また悪党のボス的存在に女性を起用し、彼女に対して主人公が『性行為』で懲らしめるなどエロ映画であることを生かした演出も見事。エロシーンも結構充実しており、未亡人ならではのシチュエーションも登場する。

全体的に90年代らしい終末への空気が当時の東京を捉えたショットと共に息苦しく伝わってくるが、佐野たち型破りなキャラがそれを打ち破って行動するのが心地よい。文字通り破滅が訪れたのにどこか希望に満ちた&前向きな登場人物によるエンディングも楽しい余韻を残す。

セットが皆無でロケを多用したピンク映画の撮影方法がかえって主人公たちアウトローの生活にリアリティをもたらす。ほとんどの場面を人通りの多い浅草でゲリラ撮影を敢行しているので、多数の人たちが変な格好をして演技する俳優を凝視しながら通る様子に見ているこっちがビビる。

それなりに豪華なキャストが揃った出演陣の息のあった演技も見所で、中でも『鬼の棲む館』の佐藤慶そっくりなスキンヘッドの佐野和宏による小悪党だけどスケベでコミカルでどこか憎めないアウトローを好演している。その子供っぽいアウトローっぷりやパンクな言動は萩原健一を彷彿とさせ、走る様子やアクションシーンの破れかぶれっぷりは『傷だらけの天使』のよう。

斉藤幸一による浅草近辺の街や廃墟となった街を切り取ったシャープな撮影もリアルだけど寓話的な世界観に大きく寄与している、後半主人公の仲間であるホームレスが悪党たちから逃げる場面で、取り壊し寸前と思われる商店街を駆け抜ける夢魔のようなシーンも忘れ難い。あと車や列車でのエロシーンは何度も見たけれど、観覧車でのセックスシーンは初めて見たかも(クレジットに協賛で「浅草 花やしき」と出ているので、ちゃんと許可を取った模様)。

終盤、揺れる画面と関東大震災の映像と夕陽の情景だけで東京大地震を表現してしまう演出の素晴らしさ感動する。そして序盤悪党の一人が手に取る関東大震災の写真が、ラストの風景と重なる奇跡。
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