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T-34 レジェンド・オブ・ウォー 最強ディレクターズ・カット版のmayaのレビュー・感想・評価

4.3
無印版はエンタメ寄りの印象だったけど、本作、割とちゃんと戦争映画だった。
キネ旬の小野寺系氏の本作への評にあったように「今、気持ちの良い戦争映画なんてありえない」は胸に刻んでおきたい。

拡大版はより人間模様と戦争というテーマを掘り下げてましたね。
ニコラウス二人の決定的な違いに、敗戦国と戦勝国、その後の独ソの違いが見て取れる。1944年のドイツ、細かいところに負けが近い描写が散りばめられている。イェーガーはどん詰まりで、この戦争で死ぬしかなく、ニコライは戦後の国造りの使命がある。
プロパガンダに食い物にされた人間の、自分の信念や自我と周囲の自分がべりべりと解離して無気力になっていく様はリアルだと思う。アーニャの「新聞記事のインタビュー」を聞いたイェーガーが「人違いでは...?」というの、すごくしんどかった。

正直、イェーガーの方が共感できてしまったのは、恐らく彼一人がナショナリズムに失望し、脱却しているから。ロシア組はドイツ軍からは逃れられたが、ナショナリズムからは逃れられていないよね。ニコライが演説する箇所、ドイツ軍の残酷な所業がカットインされてるけど、歴史上ヒトラーと並ぶのはスターリンで、近年のプーチン政権下でスターリンの再評価が進んでいる背景も知っていると、あのシーンをカットした監督はちゃんと違和感を感じるに至ったのでは...と期待する。(ちなみに、「ナチ叩き」は戦勝国のプロパガンダとして使われているケースが大変多いので、ナチの蛮行の先に、「何を意図してナチの蛮行を描いているのか?」は見抜くべき。もし、そこにあるのが全体主義や国家礼賛なら、やってることはナチと一緒です。)

本作は正直、反戦映画ではないが、記事を見ていると監督やキャストは「あの戦争を描く」ということについてよく話し合っている。イェーガーの描き込みが尋常でない点、最後の「独ソ戦を戦った全ての戦車兵に」というメッセージをみて、「今のロシアで可能な精一杯の反全体主義、反戦」の意図があってくれたら嬉しい。本作、ちゃんとロシア人、ドイツ人を各俳優使ってるので、演技に俳優たちの思いが強く乗っているのが好きなんだけど、最後の握手でイェーガーはニコライに何か託したみたいに見えたのはとてもグッときた。敗戦国と戦勝国、そしてその後の努力によって今最もリベラルな国と、いまだにあの時の戦勝を祝い国家が軍パレードを行う国。果たして真に発展しているのはどちらだろう。

イェーガーの戦車内に貼ってあるポスター、恐らくマレーネディートリッヒなのだが、彼女は1944年時点ではアメリカ市民権を獲得し、ドイツで放映禁止になっているため、イェーガーの反ナチの描写だと思われ、芸が結構細かい。戦車エンタメだけあって、アコーディオンやヴァイオリンなど、中に持ち込まれるものが個性を表しているの良いですね。
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