稀代のピアニスト
自らの人生を弾き語る
2017年 ブラジル作品
ジョアン・カルロス・マルティンス(1940-)
「傷だらけの名演奏家」と呼ばれたピアニスト。成功と挫折、再起と苦悩、波乱万丈の人生が全編本人の演奏による音源と共に描かれる。
「バッハの曲はすべての演奏者のためにある」
「作曲した時に何を感じたか、それから200年」
「音楽は静寂に形を与える」
「大切なのは音符じゃない」
繊細で大胆、常人離れした速弾きには狂気すら感じられる。破壊的な探求と飽くなき芸術への執着。彼の手を動かすのは天使か悪魔か。彼に取りついた怪物は、バッハその人だったんだろうか。
数多くの演奏場面とジョアン本人の演奏音源には圧倒され続けるんだけれど、なぜか心がチクリと痛んだ。エンディングの残された身体機能を振り絞っての演奏、その曲だけが安らぎと和らぎが感じられるものだった。
天から授かった才能をもつ稀代のピアニストの心の中に宿る"ピアノを愛する心”。それは、愛憎入り混じったものだったのかもしれない。