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熊川哲也 Kバレエ カンパニー 「ロミオとジュリエット」 in Cinemaのodyssのレビュー・感想・評価

3.3
【革新的な音楽付きのバレエ版『ロミオとジュリエット』】

セルゲイ・プロコフィエフの作曲になるバレエ作品『ロミオとジュリエット』を、熊川哲也が監督して2018年10月に東京などで行った公演を映画化したものである。

ジュリエットは浅川紫織、ロミオは宮尾俊太郎。

私はバレエにはうとく、実演で鑑賞したバレエは『白鳥の湖』と『くるみ割り人形』だけ。ただ、最近はバレエ映画(バレエ作品の映画化ではなく、劇場での練習や制作の様子などを映画化した作品)が比較的多く作られており、そちらは多少見ている。

今回はプロコフィエフの音楽がバレエ作品にどのように使われているのかに興味があって、劇場に足を運んだ。

この音楽は演奏会でもわりによく取り上げられるし、テレビやFMで聴く機会もあるから、曲そのものにはなじみはあったが、バレエと一緒に音楽を聴くと、やはり当時としては破天荒な曲だったのだと痛感する。有名な、舞踏会の場面での音楽は、イタリアの上流社会の優雅な舞踏会というよりは、どこか血なまぐさい闘争のようなおもむきがあるし、しかし若い二人の悲劇を生むもととなった舞踏会であることを考えれば、それもなるほどと思える。

ただしこういう見方はあくまで後世の人間の後知恵で、初めてこの曲を聴いた人は仰天したことだろう。このバレエ、最初は予定していた劇場から上演拒否にあったというけれど、音楽の革新性が原因だったのかも知れない。

私にはバレエ・ダンサーのうまい下手はよく分からない。しかしロミオ役の宮尾俊太郎は長身で足も長く、若い日本人の体型はだんだん西洋芸術に向くようになってきているのかなと感じ入った。
熊川哲也氏は、失礼ながら技倆はさておき体型はあまりバレエ向きではないような気がするのだが、世代の差は恐ろしいものである。

群衆の場面にも大きな魅力がある。これはオペラもそうで、ヒーローやヒロインだけではなく、群衆がどういう動きを見せるかも作者や演出家の腕前のうちなのである。バレエも西洋の舞台芸術という点で同じなのだと痛感させられた。

ただ、最後に若い二人が死ぬ場面は、もう少し時間をかけて表現していれば、と私は思う。
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