ユウ

夏への扉 ―キミのいる未来へ―のユウのレビュー・感想・評価

5.0
ハインラインの名作、夏への扉の日本映画版。
大抵の作家というものは、書いてしまえば一行や二行で足りるような些細な文章を、そのシナリオの全てを詰め込んだ象徴的な文章へといかに昇華させるか、という事に作品全体を通して意識的、無意識的を問わず力を注ぐものだ。
そして、ハインラインと言えばもちろん、「(ピートは)どこかが夏へと通じていると確信している」になるだろう。

もはや時間遡行といえば夏への扉、歴史改変といえば夏への扉だが、映画版となると実際のところ、映画尺に落とし込むのは無理だろうと思っていた。
そして日本人がやるという時点で若干、というか大いに不安に駆られた。
だが、蓋を開けてみればそれらは杞憂以外の何物でもなかった。
制作時期の時代背景や尺の都合で大きく改変されてはいるが、原作への厚い敬意は随所から感じられる作品である。
無論、尺の都合で、主人公の執念深さが描ききれていないと感じる部分はあったが、映画としては山﨑賢人というアンニュイな雰囲気を纏う俳優を主演に据えたことでこの欠点の補強に成功している。

総じて、涙腺が破壊し尽くされる映画だった。
開始5分程度で余裕で泣かされる。
結局のところ、件の象徴的な台詞「どこかが夏へと通じていると確信している」で一撃アウトで号泣なのである。
これが効かない人は、余程の原作原理主義者か、あるいはそんなにSF好きじゃない人くらいじゃないだろうか。
これから観る人は脱水症状に注意して観よう!
ユウ

ユウ