幽斎

#フォロー・ミーの幽斎のレビュー・感想・評価

#フォロー・ミー(2020年製作の映画)
3.8
スリラー映画のネタ枯れは深刻、最近では「タイムループ」「リアルエスケープ」ばかりで頭痛い(笑)。落ち着く結末は1つしか無いが、もっと気の利いたアレンジメントを求めて、やっぱり観てしまう。のむコレ2020作品、シネマート心斎橋で鑑賞。

「エスケープルーム」同じ邦題で3作品、「Escape Room」同じ原題で4作品、近似値で2018年「No Escape Room」まぁ酷かったが、本作は劇場公開のタイトルは「No Escape」だが、デジタル配信は北米でも「Follow Me」に改題。やはり検索する際に紛らわしいと判断したのだろう。と紹介したのは理由が有るけど、それは後程。

映画には4通リリースされる過程が有り、①監督のアイデアをプロデューサーが買って制作。②プロデューサーが監督を選んで制作。③監督自ら資金を出してプロデューサーを集める。④アイデアに賛同するスポンサーの意見を取り入れて制作、邦画(特に東宝)タイアップとも言う。本作の場合は③に該当、サブを含めると20人以上がプロデューサーに名を連ねる。基本的に①に傑作が多く、②はヒット作が多い。

本作は良くも悪くもWill Wernick監督に尽きる。監督は前作2017年「エスケープルーム」原題も正真正銘「Escape Room」を制作。レビュー済2019年「エスケープルーム」とは全く別モノなのでご注意を。因みに続編「Escape Room: Tournament of Champions」既に北米で公開済。2017年「エスケープルーム」評価はFilmarksでも酷いモノだが、それはアメリカも同じで「ゴミ箱に直行」と散々。

だが、当の監督はそうは思って無い。前作とほゞ同じプロデューサー、と言っても内訳は売れない俳優とか、TVや配信で食い繋いでるメンバーだが、何が悪かったのかと考え、時代のトレンドを取り入れてリベンジ。前作の密室劇からライブ配信に置き換えて製作。だが、脚本を含め基本的な構図は変わらないのでC級の域は出ない。こうした内向きの互助会的作品は総じて面白くない。アイデアに自信が有ればエージェントを通じて、本物のプロデューサーを捜す。

本編ではYouTube、Instagramと言った実在するソフトウェアは出てこない。以前、あるスリラー映画で普通に使ったら、普通に訴えられた。当社は人殺しの生配信など容認しないと(笑)。なのでよく見るとプラットホーム「Upic」と有る。其処で使われるロシア語もオンライン翻訳でプロが関与してないお粗末振り。初めからロシア人が見ない前提なのか、因みにロケは本当にモスクワで撮影された。

【ネタバレ】真剣に考える方も居るかもしれないので、予防線を張ります【見ちゃダメ】

「脱出ゲーム」と言えばスリラー映画のエポックメイキング1997年David Fincher監督「ゲーム」。それ以降に作られた全てのスリラーの指針となる大傑作。この作品の凄さは有名なオチではなく、今で言う自己啓発セミナーで行われる精神転換、マインドネスの過程を映像化した点に有る。虚構と実像の壁を映像で取り払う、画期的なアイデアだが以降の作品は「どうせゲームでしょ?」観客は斜めから見てしまう癖が付いた。しかも、同じ年に「キューブ」Vincenzo Natali監督が、密室からの脱出と言う極めてミステリー要素の強いスリラーを発表。強力な2作品の呪縛を解き放ったのが、私の生涯1位作品「SAW」。脱出モノは3作品どれかに似るしかない。本作がどの模倣かは一目瞭然。

ネット配信者はアメリカではユーチューバーと言わず、Streamerと呼ぶ。その主人公を演じるKeegan Allenに全く説得力が無いのが、本作最大の致命傷。カリスマ性に乏しく、なぜ巨万の富を得られのか、ディティールを説明しないので感情移入が難しい。加えて調子に乗り過ぎる軽薄なイメージと、脱出劇を演じるヒーロー像が噛み合わず、演じ手自身の魅力の無さ、監督の人脈の無さを痛感した。

大きな歯車が出た時は「SAWかよ!」と思ったが(笑)、主人公が妙に助かる地下室で、大半の方はオチが読めたろう。私は冒頭の機内シーンで結末が見えたが、ゲームに至るまでのシークエンスが長いと感じた方は、多分だけど傑作推理小説を読んでも退屈かもしれない。ボンクラ監督にも良い点が有り、それは伏線の回収に「律儀」な事。機内シーンをよく見れば、全員グルなのは看破できるし、伏線もしっかり見せてる。

脱出ゲームを脱出したら、マフィアに捕まり拷問ゲームに移るのは、珍しく気の利いた演出だが、見せ方が丸バレなので意外性に乏しい。取り巻きのキャラクターがテンプレなのは良いが、YouTuberはチャラくて人に迷惑ばかり掛けてるクズの集まり、と思ってる人には「彼女だけは本当の自分を見てくれる」何てパートは鬱陶しいだろう。問題なのは主人公を騙す事に精力を傾ける割に、観客を騙す事に力点を置いてないので、これじゃあ「イイね」は難しい(笑)。

アメリカではStreamerの迷惑行為で銃撃事件とか、ドッキリで巨大な落とし穴に無関係の人が落ちて死んでしまうとか、過失と故意の境界線を論議する事件が多発してる。日本でも煽り運転を投稿して逮捕、とか普通に有るので承認欲求の恐ろしさを改めて感じる。レビュー済「スプリー」も生まれるべくして作られた。

評価するとしたら最後のブラック。私は2019年「エスケープルーム」的なオチを予想したが、まさか古典の1997年「ゲーム」。何でもやり過ぎは良くない?。いや私はそうは思わない、これを仕掛けた取り巻き全ての方が悪人でサイコパスに見えて仕方ない。所詮、金だけで繋がった愛情と友情なんてネットと同じく虚構に過ぎない。

「スプリー」→「ソウ」→「ホステル」→「ゲーム」。YouTuberが嫌いな方は観なくてよい。
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