地底獣国

ラース・フォン・トリアーの5つの挑戦の地底獣国のレビュー・感想・評価

3.6
L・V・トリアーによる5本の縛りプレイ映画

業界の大先輩であるヨルゲン・レス監督が1967年に撮った“Det perfecte menneske”を、様々な制限を設けたうえでセルフリメイクさせる企画。

国立映画学校でレスの講義を受けていたトリアーがどういうつもりで恩師をこの企画に巻き込んだのか知る由も無いが、映画の最初の方でおよそ心にも無い薄っぺらい賛辞を並べ立ててたところからすると一筋縄ではいかない思いがあるようで、それは直ぐに彼の提案する「縛り」で明らかになる。

一部挙げていくと、
一本目:「キューバロケ」「12フレーム/秒にする」「オリジナル版で提起された質問に答を出す」etc
二本目:「世界でもっとも悲惨な場所でロケ(レスが選択したのはムンバイ)」「その場所を映さない」「レス自身が『完璧な男』を演じる」etc
三本目:「縛り無し」
四本目:「カートゥーン(アニメ)」
五本目:「トリアーが編集した素材に合わせて、トリアーが書いたシナリオをレスが読む」

そもそもオリジナル版からして自分には全く良さが分からん代物で、ここで作られたリメイクも一本を除いてはどうという事のない感じではあるんだが、要は「無理難題を押し付けられて困るレス」というのが本作の肝だったわけ。

二本目が条件をクリアしてなかったからという理由で「やり直し。もう一回ムンバイへ行って撮ってください」と言われて「あそこには二度と戻らん!」ってキレそうになりながら返したり、「この企画の目的はセラピーであっていい映画を作ることじゃありません」って言われて「セラピーが必要なのは…」みたいな表情になったり、四本目の条件を聞いて「カートゥーンは嫌いだ」と言ったら「私も嫌いです」と返事にならない返事をされて半笑いになってしまったりするレスの姿を見て「こんな輩に絡まれて気の毒やな」と思いつつ笑いを禁じ得ない。

ムンバイ編の撮影、路上で衆人環視の中、豪勢な食事を摂るシーンでの「どうしてこんなことに‥」みたいなレスの気まずい表情がえも言われぬ味わいで、つくづくトリアーの野郎、最悪(つまりは最高)やな。

そんなこんなで最後の五本目、レスに読ませる文章の中にトリアーの意図やレスへの愛憎半ばする思いが綴られていてなんかイイ話風に映画を締めるんだが、果たしてこの文章の何%が本音なのか分かったものではないし、そもそもこの映画の中身はどこまでがガチでどれぐらい茶番というか段取りに基づいてやってるのかも考え出したらキリがないけど、まあ面白けりゃええか。「ボス・オブ・イット・オール」の3倍ぐらいは笑かして貰ったしな。

余談:本作のあともレスの映画作りをトリアーが支援したりと、結構このふたり、信頼関係がしっかりしてるのかも。
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