Few

嵐ケ丘/嵐が丘のFewのネタバレレビュー・内容・結末

嵐ケ丘/嵐が丘(1939年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます


私は、ずっとキャシーのどこが良いんだろう?と思っていた。
馬丁生活を捨て去って、さっさのアメリカに渡る方がヒースクリフはもっと良い生活も送れるし、このくらいの女の人いるんじゃないの?とすら思っていた。

でもすぐに掴めてくる。
クリノリンをはめてドレスを身に纏えば、虚栄心を求める冷酷な女に、ペニストーン岩で落ちあえば昔から変わらぬキャシーに、ひらひらと異なるキャシーが姿を顕す。ヒースクリフは、何も変わらぬキャシーだけを愛していたのではなく、妖しさを兼ね備え、葛藤に揺れるキャシーにこそ惚れ込んでいた気がする。

これは惚れてしまう女だ。トゥルゲーネフの『初恋』に登場するジナイーダもそういう、複数人の人格を意識的に兼ね備えているきらいがある。良い女はそれを、苦しいふりをして、愉しんでいる。冷たくあしらった翌日には「許して」と、手をしっとりと握ってくる!

二人の恋は細く熱く続いていた。それはキャシーの身勝手な振る舞いによってではない。
思い返してみれば二人の恋の来歴は、ありもしない城を描いて、騎士と奴隷(王妃)になることだった。
煌びやかな館で妻のふりをしようとも、ヒースクリフがキャシーである以上忘れられるはずもない。しかしそれを知るのはキャシーと女中だけ。恋が途切れたと思っているのは男性陣だけだ。

二人の恋は、なんにもない荒野の岩陰に秘密を育むことが、基本条件なのだ。それに気づかないヒースクリフが一番もどかしい。

ただ、キャシーの亡骸の側で凛と立ち、「私が生きる限り、幽霊となって私を苦しめよ」と高らかに命ずる姿は勇ましかった。騎士になることを決意した幼少期の無邪気さが在ったし、二人の恋を皆に知らしめているようだった。

吹雪く真夜中に消えていった二人は、本当に、誰にも見つからない、しかし誰もが知っている秘密のなかで恋をしつづけるんだ!と手に汗を握った。


小説は後で読も〜と思っていたのでわかるけど、多分映画の内容は薄い。けれど、キャシーが亡くなる間際の美しさは、小説では出逢えない予感がする。小説、1年以内に読みます、がんばります。
ま、そこまで面白くはない映画でこんだけ語れるから、小説にはもっと期待できるので楽しみ。
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