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シドニアの騎士 あいつむぐほしのymdのレビュー・感想・評価

4.2
弐瓶勉による長大SFコミックの映像化作品としての最終作。

前劇場版はテレビアニメシリーズ1期の総集編だったのに対し、本作はこれまでのテレビシリーズの正統な続編となっており、見事な完結を迎えている。

絶望的な状況で死闘を繰り広げるハードSFな世界観と、思わず身悶えするような青いラブロマンスが結び合った奇妙な作品だったけど、この映画はさらにラブストーリー的な側面が推進されており、また、長編シリーズらしく各キャラクターの内面に照射された心理表現が深く根を張っているのが特徴的。

ガウナという人知を超えた異物との交戦だけでなく、船内で交差する人間同士の思惑の対峙などにも十分な描写が割かれてきた作品なので、今作はそれらをすべて回収・消化することで言いようのないカタルシスを得ることができるのである。

2時間弱の尺の中に収めるために膨大な情報量を処理する必要があることは明白であり、どうしてもやや性急な感は否めないものの、シリーズを追ってきた人であればすんなり入り込める程度の丁寧な作りになっている。

つまりは過去シリーズをすべて見ておくことが前提となる作品ではあるが、それはこの類の映画であれば当然な仕様なわけであり、決して多くはない(であろう)ファンへ向けた最大級の餞として受け取ることができるわけだ。

テレビシリーズ時代から群を抜いていた映像・音響の作り込みは今作でさらに突き詰められており、ジャパニメーションのクオリティを世界に誇示できるほどのクオリティに仕上がっている。

静と動(艦内と宇宙)のコントラストを際立たせることで、緊張と緩和のバランスが見事に保たれており中弛みすることなく一気に駆け上がる構成がとにかく爽快で素晴らしい。

ハードSFとしての精緻な世界観の作り込みと、ロボットアクション作品としての機能性は申し分ない一方、より情感豊かになった恋愛描写はやや稚拙で直情的なのは気になるし、お約束のようなベタな展開やセリフを連発させる青臭い演出も頻発するけど、最終作らしい「祝祭感」に溢れたご愛敬として十分許容できる範囲だと思っている。

「シドニアの騎士」には”掌位”という陣形があるのだけど、(物理的にも概念的にも)「手をつなぐ」ことこそが本作のテーマでありアイデンティティである。

副題からも明確だけど、その作品としての根幹を深く掘り下げた本作はまさに完璧な完結であり、まったく見事で美しい大団円である。

いわゆるオタクコンテンツかもしれないけど、エヴァくらい市民権を得ても決して不思議ではない傑作。
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