ゑぎ

ダーク・ストレンジャーのゑぎのレビュー・感想・評価

ダーク・ストレンジャー(1946年製作の映画)
3.0
 有名なスクリプトライターのコンビである、シドニー・ギリアットとフランク・ローンダーによるナチス・スパイもの。スリラーでもあるが、コメディ色も強い。これが一風変わっているのは、主人公のデボラ・カーのキャラクタリゼーションで、彼女はイギリス嫌いのアイリッシュ。IRAへの参加を希望するも断られ、ドイツに英軍の情報を伝えるスパイ(と云っても、かなりの下っ端)の仕事を始める、という役柄だ。

 クレジット開けは、アイルランドのパブのカット。カメラが前進移動で寄って行くと、完璧な窓のすり抜けを見せる。『バルカン超特急』なんかの呼吸を思い起させる。最初のシーンはカーの少女時代だが、テンポよく場面転換し、あっという間に成人して、イギリスの田舎、英軍の基地の近くの酒場で働いており、軍人とデートすることで、聞き出した情報をドイツのスパイに伝える仕事をしている。そこに、旅行者のトレヴァー・ハワードが現れるが、カーは、ハワードのことを、所作言動から英国諜報部員だと思い込み、いやいやデートを繰り返す。逆にハワードはいきなりカーのことを好きになっており、このあたりは、ちょっと雑に感じる。

 替え玉の要人護送とトンネル内での銃撃、車椅子に乗せた死体を崖上から始末するシーン等、タイトなスリルを紡ぐシーンも続くが、舞台が、マン島へ移って以降は、コメディ色が強くなる。マン島の警察官(英軍人?)2人は、『バルカン超特急』や『ミュンヘンへの夜行列車』に出て来たベイジル・ラドフォードとノーントン・ウェインのような無駄口キャラ。葬送の馬車の行列を使ったユーモアあたりまでは楽しいが、ホテルの部屋でのドタバタ演出は、ちょっとやり過ぎではなかろうか。エンディングのカーの行動も、呆気にとられてしまうが、これは優秀なライターチームらしい小咄的帰結。非現実的な脱臼ワザとして、理解は出来るが、私は好きじゃない。
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