ukigumo09

Bonsoir(原題)のukigumo09のレビュー・感想・評価

Bonsoir(原題)(1994年製作の映画)
3.5
1994年のジャン=ピエール・モッキー監督作品。1959年に『今晩おひま?』で監督デビューした彼は2019年に亡くなる直前まで仕事をしており、『Tous flics!』は死後編集され2022年にお披露目されるなど大変長いキャリアを誇っている。初期コメディにしても社会風刺や体制批判を含んでいたが、68年の5月革命の幻滅から犯罪映画が増え汚職や報道機関の口封じ、死刑など重いテーマのものが増えてきた。本作『ボンソワール』も犯罪映画と言えるが、主演のミシェル・セローの個性もありコメディとして観ることができる作品となっている。

『ボンソワール』のフランス公開時のポスターはミシェル・セロー演じるアレックスが自分の左足に左手で頬杖をつき、パリの街並みを跨ぐようなデザインとなっている。これは1913年の映画史上の伝説的な犯罪映画ルイ・フイヤード監督の『ファントマ』のポスターデザインのパロディである。犯罪王と警察によるパリを縦横無尽に駆け巡る追走劇である『ファントマ』と『ボンソワール』の関連性を考えるのも面白いだろう。
アレックス(ミシェル・セロー)は妻には出ていかれ、会社が倒産することになり仕立て屋の仕事も失ってしまう。結婚生活や仕事といった義務や責任がなくなった彼は下水道のクルージングガイドの姿も見せるが半ばホームレス状態である。彼は見ず知らずの人の家を訪ね、親戚のふりをして上がり込み食事をご馳走になって一晩泊まって出ていくという謎の行動をするようになる。最初の家のデュモン夫婦は妻のイヴォンヌ(マイケ・ジャンセン)に気に入られ難なく侵入するが、朝になってアレックスが狩猟用の笛を大音量で吹いたため近所で騒動になってしまう。次の家のキャロライン(クロード・ジェド)はレズビアンであり恋人のグロリア(コリンヌ・ル・プーラン)と素敵な夜を過ごそうとしていた。そこにキャロラインの叔母と妹が現れ、同性愛者は遺産相続の権利がないと通告する。遺産は手にしたいキャロラインは、イヴォンヌは秘書で自分には男性の恋人がいると言ってアレックスを紹介する。
アレックスは何軒か回っているうちに自分が泊まった家に警察の捜査が行っているのに気付く。ニュースで報道もされ始めるのだが、どの家も自分とは無関係の盗難被害を訴えている。どうやらアレックスの後をつけて盗難を働く人物がいるようだ。7人の子供を育てるシングルマザーや恋に悩む神父の家に行った後も同じように付けてくるのでアレックスはある対策を考え実行する。

この作品では警察官ブリュノ(ジャン=クロード・ドレフュス)はアレックスを追って、行く先々にやって来るがかなりおとぼけで無能に描かれている。警察だけでなく聖職者や大統領も問題を抱えた人物として描く代わりにアレックスのようなホームレスの犯罪者や同性愛者やシングルマザーなど社会から弾かれそうな人物に温かい眼差しを送るのはモッキーならではだろう。本作のアレックスはパリの家々を食事と寝泊まりして回る現代のファントマなのだ。
ukigumo09

ukigumo09