ただのすず

もう終わりにしよう。のただのすずのレビュー・感想・評価

もう終わりにしよう。(2020年製作の映画)
4.1

「行かないで、この時間の先に、ここに残ってもいいのよ」


死んだ日の朝が、あんなに清々しく美しいのは反則だと思う。
もう終わりにしたいと思っている恋人同士に降る雪がとんでもなくロマンティックなのも。

映画を観だして知ったことは、ただ生きるということがどれほど苦しいかという事、普通に生きるということがどれほど簡単ではないという事。
生きることは素晴らしい、生きてこそ、生こそ喜び、みたいなものから私は映画を知ったけど、ひっそりと胸に抱いてどうしようなく好きだと思うのは、もう終わりにしよう、みたいなお話なのだから、仕方がない。
私が今生きていられるのは、彼より少しだけ強いからにすぎない。

猛吹雪に閉じ込められた車中の会話劇が最高に好き。
美しい雪が陰鬱な自分たちをぐんぐん追い越して通り過ぎていく。一面の銀世界、自分たちは最低な気分なのに、世界は全くそんなことは関係ない、乖離してる感じに興奮する。

陰鬱で美しい雪の車中、ホラー脳内実家、誘うアイスクリーム屋、終結の学校。
単純に死に向かってるだけの話をこれだけ奇怪にロマンティックに面白くできるのが凄い、そもそも陰鬱さとロマンティック、ホラーと実家の妙な安心感、相反する感情が一緒に襲ってくるのが凄い、なにこれ。
現実と妄想が混濁する、全部好き。
自分を蛆の湧いた豚に例える主人公が好きではないと思うのに、彼がひっそりと心の奥に置いていた詩や同じ風景画をどうしても嫌いになれない。
どう撮ろうとも、根本にいつも同じものがある、それが私は好き。


陰鬱でどうしようもない時に、またあの清々しい晴れの日を観たくなるだろうと思った。