岡田拓朗

アジアの天使の岡田拓朗のレビュー・感想・評価

アジアの天使(2021年製作の映画)
4.0
アジアの天使

傷だらけの人生。でも、自由だ。

直近では『生きちゃった』『茜色に焼かれる』が公開され、それ以外にも『町田くんの世界』『夜空はいつでも最高密度の青色だ』など、さまざまな傑作を生み出してきた石井裕也監督。
それに相まって久しぶりの池松壮亮さん主演映画、かつ石井監督とのタッグ、さらにオダギリジョーさんまで出演しているということで、とても心待ちにしていた作品。

この世界は広いようで狭くもあり、狭いようで広くもある。

ここではないどこかへ想いを馳せたら広く感じるし、今ここにある空間や関わる人たちを大事にしたいと思えたら狭く感じる。

その時々における心持ちや想いに向き合うタイミングは必要だけど、それはそれぞれのタイミングでできたらよいし、予期せぬ出会いや関わりから思い起こされることもあってよい。

そんなそれぞれに対する寄り添いが感じられる救いのような映画だった。

冒頭から何度も口にされる相互理解は、本作のテーマともなっている。
言語や文化が異なっていて、国同士にも埋めきられていない亀裂があることで、簡単にはわかり合えない人同士が、少しずつでもお互いに歩み寄って、関係を作ることを諦めなかったからこそ、たどり着く結末がとてもよかった。

同じ国同士だとしても、言葉が通じたとしても、同じ文化を共有できたとしても、人と人が100%わかり合える関係を作ることは難しい。
それは、もしかしたら限界があることなのかもしれない。

でも、わかり合おうと、助け合おうと、寄り添い合おうと努力することはできて、それはどれだけ相手に前向きな想いでいられるか、そんな気持ちをベースにして関われるかが大事なんだと思った。

優しさと愛が報われて欲しい願いを、より直接的に強く感じて、この映画に世界平和のヒントが散りばめられている。

大きく抽象的なイメージや決めつけだけでその人を判断してしまうと、その先にある可能性をそれだけで閉ざしてしまうことになる。
それでもやっぱり踏み込む一歩がとても重くなるのも、イメージや決めつけが先行してしまうのもよくわかる。

だから少しずつでも、お互いに歩み寄ってわかり合おうとすることさえできたら、そんな単純なことではないかもしれないけど、争いは生まれなくなるんじゃないかと。

そして、青木透のキャラが本当によくて、オダギリジョーさんめっちゃハマってた。
ああいう人が近くにいると、世界が広がるというか、場がそれだけで明るくなって、人と人がつながっていく。

相手に抱く想いこそが、関係につながっていくということ。
言葉からではなく、想いや気持ちから作り、育て上げることで、関係は進展していくことを強く感じられた作品だった。

前情報なしで観に行ったので、アジアの天使は予想外すぎましたが、みんながアジアの天使に見えた。

世の中は常に変わり、その中で石井裕也監督は『生きちゃった』『茜色に焼かれる』『アジアの天使』と異なる世相や背景を軸に描かれていたけど、根底にある大事にしたいものは変わらないと感じた。
描こうとしていることへの信頼度がとても高い監督の一人です。

P.S.
石井裕也監督に池松壮亮さん×オダギリジョーさんはその時点でもう間違いないと思ってたけど、まさかの兄弟としての共演で、それだけでも貴重な作品だった。
オダギリジョーさんが演出脚本を手がけるドラマでも池松壮亮さんが主演されるとのことで、2人のタッグが増えてきそうなのがとても嬉しい!
岡田拓朗

岡田拓朗