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ウルフウォーカーのりのネタバレレビュー・内容・結末

ウルフウォーカー(2020年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

カートゥーン・サルーンのケルト三部作の第三作目。個人的にはいちばん好き。劇場公開が色々なタイミングと重なって、あまり注目されなかったので、これからもっと観られてほしい。

明言されていないけど、護国卿は明らかにオリバー・クロムウェルを意識している。アイルランドの長い苦難の歴史が始まるあたりが舞台。登場する神話は知らなかったが、楽しめた。

始まって早々、イングランドのアクセントを持つロビンが、アイルランドの子供たちに、お高くとまっていると馬鹿にされる場面があって、これ中の人が思ってることだろうなといらん邪推をした。

曲線が多用された美しい森の描写と、楽しいケルト音楽、透明感のあるAuroraの歌が相まって、幻想的な世界に魅了された。対して、ロビンが仕事をさせられる場面は直線で囲まれていて、暗くて冷たい。視覚的にはっきり分けられていた。

子供が搾取されている場面や、お父さんが職務と自分の志と娘の間で葛藤する場面や、メーヴがお母さんを救おうと必死になる場面は、観ていて胸が締め付けられる思いがした。

二作目の『ソング・オブ・ザ・シー』でもそうだったように、お父さんが望まないジェンダー・ロールから解放される過程を、丁寧に描いていて良かった。お父さんに感情移入して泣いた。

私は専攻がイギリス文学なので、どうしてもイギリス、イングランド視点が強くなる。なので、抑圧された側の視点も同時に学ぶことが必要だと実感した。

最後のハッピーエンドはご都合主義すぎないかと思ったけど、あの最後が現実かどうかは曖昧になっている。カートゥーン・サルーンは一貫して、過酷な現実に対して、フィクションの力で対抗することを作品を通して力強く示していて、『ウルフウォーカー』の最後はまさにそれじゃないかと思う。あの馬車の行く手に、未だにイングランド植民地時代の尾を引くアイルランドに、明るい未来が待っていることを願ってやまない。
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