JohnConstantine

ザ・ビーチのJohnConstantineのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・ビーチ(2020年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

ワンシチュエーションのホラースリラー。
物語はとある一軒家をメインにビーチで進行する。

登場人物は主人公エミリーと恋人のランドール、そしてランドールの父ドクのビーチサイドの家にいたミッチ&ジェーンのターナー夫妻。

作品の半分は家での会話劇で、その中でのちの展開に関しての示唆に富んだ話が出てくる。


エミリーは生物学を先行しており大学院への進学も考えているタイミングで、地球上の生命の起源・発生そして環境について、まさにこの作品に関して象徴的な発言をしている。

生物の環境への適応、発生への長い長い時間、様々な要素が偶然にも上手くフィットして我々生物は生きている。何か1つボタンを掛け違ったら我々は塵やガスになっていたはずである。
地球以外の惑星の環境は厳しすぎて我々生物はおそらく生きていけないだろう。
エミリーはこのように語る。

私の非常に拙い生物学の記憶に残る話ではオパーリンの提唱した液滴が生命の起源であり、これがのちに細胞になったというのが有力な説だ。
しかしながらこの経過にはそれこそ10億年のオーダーで時間を要するため観察した人はもちろんいない。

エミリーの話は基本的にそうした生物学の定説を踏まえているのだが、これが話の動き出す後半への布石となっている。

またミッチがエミリーに対して、「若者にとってこの世界は違ったように見えるかもしれないが、情報に溢れていて恐ろしい」と語りかけるシーンがある。
これに対してエミリーは「情報があるから色々なドアが開いて人生を豊かにしてくれる。恐れることではない。スピードが早いだけだ」と返す。

この会話は、生命の発生から現代に至るまでの遺伝情報の連綿とした伝達、生命と環境における情報の増加とそれによる加速度的な変化およびそれによってもたらされる様々な可能性を指しているのだろうか。
ここでいう可能性は、もちろん今ある生命にとって都合の良いものではなく、カタストロフィも含んでいるのだろうか。

前半の会話劇では皆そこそこに飲酒をした挙げ句大麻チョコレートまで試す始末で、後半に起こる最初は幻想的に見える変化が、そうした化学物質による幻覚かと思わせるような向きもある。


しかしながらビーチで得体の知れない生き物によりエミリーが受傷してから、そんな考えは追いやられる。


何らかの生物が突如として大量に出現し、まず飲料水が異常をきたす。これについてはミッチが前夜の皿洗いの際に気づくものの、飲酒と大麻摂取のせいか特別な注意を払っていない。

そして飲み水だけでなく、あたり一面に霧が深くなるが、それは霧ではないことが判明する。

警察官との無線でのやり取り、テレビの全チャンネルの緊急信号、ラジオ放送の断片的な情報により、何らかの宇宙から?の生物が水と空気を汚染し、それにより人間は命を落とし滅亡するであろうことが示される。

色々あってエミリーは酸素ボンベを手に車で逃げ出すが、霧があまりにも濃く、木に衝突してしまう。

そして最後、浜辺に横たわるエミリーが「怖がらないで」とうわ言のように繰り返し、波にさらわれて終わる。
この時のエミリーの目は、ランドールが最期を迎える前と同じように黒目は失われ全面に白くなっていた。
この言葉は生物学を専攻するエミリーが生物の進化・環境の変化を恐れるなと自らに言い聞かせているのか、それともエミリーを乗っ取った生物が新しい環境への恐怖に対して語りかけていたのか。あるいは画面のこちら側の私達に対する、生物としての変化・環境の変化を恐れるなというメッセージなのだろうか。
そのあたりは判然としない。

大学に行かせてもらいながらその意義を見いだせず、まるで学生が飼育されているようだと考え退学してしまった青二才のランドール。飼育されるのを恐れた彼が霧に毒され自らの身体のコントロールを失いつつあるなかで感じる恐怖。

そして不治の病を抱えるジェーンとともに世をはかなんでいるミッチ。

こうした人々が自らの意志に反して、宇宙生物の侵食により1日2日という短いスパンで急激に命を落としてしまうのはなんたる皮肉だろうか。


感染もののホラースリラーであり、終末思想を描いた物語でもある本作、生物の起源と環境について語らいながらその環境の激変により急激に滅んで行く人間。

前半の会話劇への答えが後半のグロテスクなホラーという話の組み立てもなかなかだったように思う。

さほど評価は高くないようだが、これは予告編を見ずに鑑賞したらイメージが変わるかもしれない。
予告編で気味悪い生物が散見されるのがかえって面白さを半減させているように思う。

科学的な生物の発生・進化論に始まり終末論に終わるのはなかなか上手い展開だと思わされた作品でした。
JohnConstantine

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