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侠道1のminamiのネタバレレビュー・内容・結末

侠道1(2000年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

 全6話の長編で描かれるのは、〈愛〉と〈正義〉の下に行われる〈狂った〉男同士の命のやり取り。滝沢、浩一、工藤の壮絶な三角関係に、東、千秋の複雑な感情が絡み合う。「愛とは何か」「正義とは何か」…作中に散りばめられたこの壮大なテーマを噛みしめながら、全6話の物語を味わいたい。


▽滝沢昇(竹内力)について
 仁龍会幹部。本家若頭だが自分の組は持たない一匹狼。総長殺しの汚名を着せられ、その手に総長の形見のドスを握りしめ、逃亡生活を始める。口数が少なくあまり感情を表に出さないが、仁義に厚い人柄からか、彼を信頼する者は多い。

 「俺は親父さんに拾われた、ただの犬っころですよ(滝沢)」「私たち知り合ってもう15年よ(千秋)」との発言から、15~20歳前後で(回想シーンでは中学生くらいに見えるけど)総長の元に身を寄せるようになったと思われる。例えば父親が仁龍会組員で、抗争で命を落としたものの、他に身よりがなかったので総長が引き取ったとか。(知らんけど

 なぜ滝沢は真実を浩一に明かさなかったのか。ドスを持って総長の葬儀に向かった時、滝沢は命に代えてでも亀井に復讐しようと固く心に決めていたに違いない。しかし、亀井に「彼(三代目総長になろうとする浩一)には私が必要なんです。汚れてしまったあなたにはもうその役目はできない。」と言われ、その刃を鞘に納めた。

 滝沢が「真犯人は亀井だ」と言ったら、浩一は信じただろう。実際に、あの時、千秋だけでなく浩一も滝沢のことを疑ってはいなかった。(6話で浩一がそう述懐している。)しかし滝沢はそうはしなかった。自分の身の潔白を証明することよりも、仁龍会の未来を優先したのだ。また、自分が去り、亀井が浩一の側に付いても、浩一なら十分総長としてやっていけると、浩一のことを信じていたのかもしれない。いずれにせよ、滝沢が真実を明かさず、あえて汚名を背負ったのは、全て浩一のためだ。滝沢は逃亡しつつも、浩一を思い、浩一を守り抜こうとする。

 その原動力となっているのは、浩一への愛情というよりは、総長への恩義・組への忠誠心からだろう。滝沢は、作中で皆に思われ、様々な感情の対象になるが、滝沢自身が個人的に誰かを愛したり、誰かを想ったりすることはあるのだろうか。総長の死後、空洞になってしまったその心が、何かに満たされる時はくるのか。


▽磐田浩一(坂上忍)について
 仁龍会二代目総長の息子。考古学者であったが、父の死後、三代目を継ぐことを決意する。

 考古学者時代はイキイキ目を輝かせていた浩一。滝沢に対しても「いい夢見せてもらってます。滝沢さんは楽しんでますか?」と発言している。しかし、病床に伏す父親を見て「僕は親父に何をしてあげたらいいんだろう…何をしてあげられるんだろう…」と悩み、父親の死後、「父が望んでいたものは何だったのか、生きてきた道がどんな道だったか確かめてみたい。」と三代目総長になる決意をする。学者時代は情けない印象の浩一だったが、総長就任以降は切れ者で、時に冷酷。そしていつも悲しい目をしている。

 滝沢とは幼少期より兄弟の様に育つ。「やっぱ僕ら(父・滝沢・浩一)みんな似てる。滝沢さん、父さんの口癖知ってます?滝沢さんが長男、僕が次男、千秋が末っ子。でも滝沢さんが一番出来がいいって。僕も父の意見に賛成ですよ。」と発言していることから、滝沢を兄のように慕っていることが分かる。しかし、実父も妹の千秋も、自分よりも滝沢を慕い、愛しているという現状。滝沢に憧れつつも、そうはなれない自分との葛藤。実のところ、滝沢に対して、尊敬と愛情と嫉妬が入り混じった複雑な感情を抱いていることが後に分かる。滝沢のようになれないから、あえて滝沢と反対の道を歩んできたのだと。

 ラストで父親の葬儀に現れた滝沢に対して「待てよ!どうして父さん殺した!」「僕の目を見ろ、僕の目をみて答えろ!」「滝沢~!!」と強い言葉を放ち、その背中に銃を数発放った浩一。6話にて、浩一は最初から滝沢が殺したとは思っていないと述べていることから、この時の発言は「どうして罪を被るんだ!どうして自分の元を去るんだ!」という悲痛な叫びだったようにも思える。

 三代目総長の道を選んだのは、(父親と同じ道というだけでなく)滝沢と同じ道を選ぶことで、これまで避けていた「滝沢」という存在と、そして自分自身と向き合うためだったのかもしれない。


▽工藤春樹(菅田俊)について
 マル暴刑事。素行が悪く横暴。滝沢に対して異常なまでの執着をもつ。口癖は「バカ」(←かわいい)、特技は酒を口に含んで、ブーッと人の顔面に吐くこと(←汚い)。

 常にヤクザを煽り、ヤクザを翻弄する工藤。「派手に殺しあってほしいんだよ、俺は。てめえらクソヤクザが、派手に殺しあって、全員悲惨に死にましたっつうストーリーが見たいんだな、高いところからよ。(:滝沢に対して)」「テメエみたいな雑魚が動いて手打ちにでもなったら、俺は頭にきちゃうんだよ。(:大島に対して)」との発言から分かるように、ヤクザ同士の抗争を望み、時にけしかける。

 また、若松組が集まるスナックにて、口に含んだ酒を皆の顔面に吹きかけ、一瞬にして場の空気を凍らせるのだが(一瞬BGMが止まる演出も良い)、その際、皆の嫌がる顔みてニタニタ笑ったり、その後に意味もなくホステスさんをいたぶって喜んだりと、元来サディスティックな人間であるようだ。また、滝沢が殺した遺体を、嬉しそうな、どこか満足そうな表情を浮かべ、じっくり眺める姿も印象的。

 最も衝撃的なシーンは、滝沢が若松を殺害した後の車内でのやりとり。若松を射殺した際の拳銃(現場に落ちていたのを工藤が勝手に回収した)を滝沢に差し出し、「滝沢!狂って狂って狂いまくれ!みんなブチ殺してきれいにしちまってくれよ!」と感情を爆発させる。無視して車を降りようとする滝沢に銃をつきつけ「逃げたきゃ逃げろよ。俺はお前を逮捕なんかしねぇからな」…そしてカチッと空撃ち。しかし、滝沢が去った後、過呼吸になりビニール袋を取り出し口に当てる。そして呼吸を整えた後、切ない表情を浮かべ、「俺はお前を…俺は…お前が…」と呟く。わざわざ袋を常備しているということは定期的に過呼吸になっているということを示唆しており、工藤の滝沢への並々ならぬ執着が分かる。「俺はお前を…俺は…お前が…」に続く言葉は何だったのか。また、滝沢との間に過去に何かあったのか。(それが明かされることは無い。)

 工藤は滝沢に「狂え」「みんなブチ殺せ」と言うが、終盤、屋上から「滝沢!俺がお前を殺してやるよ!」と叫ぶことから分かるように、工藤は、自分もまた滝沢を殺したいと強く願っている。そして、後の発言で分かることだが、滝沢に殺されたいという願望も持っている。

 ちなみに、私はこの作品のテーマは愛・正義・狂気だと考えるのだが、それらについてのほとんどは工藤の口から語られる。そういった点からも、この作品において工藤は重要な役割を果たす存在であると思うし、この作品を名作たらしめているのがまさに工藤であり、演じていらっしゃる菅田俊さんであると考えている。(この作品で菅田さんのファンになりました)

▼おまけ:工藤の好きなシーン(細かい
・冒頭、滝沢の車はたいして幅寄せしてないのに、大げさにのけぞる工藤(と東)がかわいい。
・大島に相手にしてもらえなくて「車どうするんだよ」ってしょぼんとなる工藤がかわいい。
・滝沢にも「結構です」とつれなくされて「おい、遠慮するなよ!滝沢!滝沢!」と追いかけるシーンがかわいい。
・滝沢の銃(若松殺害の証拠)をそっとポケットに入れて、東を見てニカッと笑う顔がかわいいけど、その後スンと真顔に戻るところがめちゃ怖い。


▽東芳夫(中野裕斗)について
 工藤の部下の若手刑事。1話では工藤のやり方についていけず、一方的に翻弄されているように見えるが、徐々に工藤に惹かれていく。「なんでだよ、なんで工藤さんはいつもお前だけ特別扱いなんだよ。」「お前と…工藤さんの間には…一体何があったんだよ…」という東の滝沢への発言は、単なる疑問というだけでなく、滝沢への嫉妬心の表れのようにも思える。また、工藤と対峙する際の東(中野裕斗さん)の表情がいつもすごく良くて、見ていて切なくなる。


▽磐田千秋について
 仁龍会二代目総長の娘でシステムエンジニア。滝沢に好意を寄せ、その胸中を本人にも伝えている。稼業には良い印象を持っていない。さっぱりした性格で、意志が強く聡明な女性。


▽登場人物
・仁龍会
   二代目総長:磐田繁
   幹部:中里、佐々木(宇梶剛士)、亀井(遠藤憲一)、金子(古井榮一)、滝沢(竹内力)
・若松組
   組長:若松(成瀬正孝)
   幹部:大島

・倉田組
   組長:倉田(寺田農)

・警察…工藤(菅田俊)、東(中野裕斗)

・磐田家…長男:浩一(坂上忍)、長女:千秋 
     ※ともにカタギ。滝沢と三兄弟のように育つ。

▽あらすじ
 仁龍会二代目総長が病床に伏す中、仁龍会幹部の金子(古井榮一)が若松組との協定を破って商売し、その報復に金子組幹部が射殺される。仁龍会幹部陣はこれを機に若松組を乗っ取ろうとの目論みから報復を決定するが、本家若頭の滝沢は、分が若松組にあることと、自身が若松組組長の若松(成瀬正孝)と兄弟分ということから、なんとか和解させようと奔走する。滝沢は倉田組親分(寺田農)を仲裁に担ぎ出すが、仁龍会幹事長の中里が突っぱね、若松組との全面戦争が決定的になる。

 そんな折、金子が何者かに襲われ殺される。当然、仁龍会は若松組の仕業だとして抗争を激化させるが、実際は襲わせたのは、次期幹事長候補として金子とライバル関係にあった佐々木(宇梶剛士)だった。(現場の組員達に「イノシシ(金子のこと)があと三分で来る」と指示していた電話の声は佐々木。また、後に、中里が佐々木に「金子殺しのことは目を瞑ってやる」と発言していることから、これは佐々木の単独行動か、少なくとも佐々木の発案だと思われる。)

 抗争が激化し、劣勢に立たされる若松組。若松組幹部の大島は手打ちを願うが若松は聞く耳を持たない。そんな折、仁龍会中里と大島が密会。その後、大島らは料亭で倉田を殺害する。(ちなみに、今作では名前は出てこないが、この時、倉田殺害に手を下した若松組組員の一人が、2話以降で活躍する杉原である。)中里に命じられ、若松を殺害するために舎弟と共に尾行していた滝沢。一人残された若松と対峙し、兄貴と慕う若松を震えながらも射殺する。そしてその後待ち構えた組員達に一斉に射撃されたため、逃亡する。

 実はこれは全て中里が仕組んだ計画で、中里にとって都合の悪い人間(倉田・若松・滝沢)を一夜にして始末し、全ての罪を滝沢に擦り付けるというものだった。亀井は、滝沢が倉田殺しの犯人として疑われては困るという理由で、滝沢に身を隠すよう告げ、ビジネスホテルに滞在させる。

 中里に協力した大島は(おそらく中里の指示で)佐々木に殺される。そして病室で寝ている総長を亀井が射殺し、滝沢の仕業に見せかける。(少し前に、中里が亀井に「放っといても長くはないが…親父の死体も俺が有効に使わせてもらおうと思う」「俺はお前を選んだ」と発言していたが、亀井に総長を殺させ、その功績として幹事長に就任させるということを指していたと思われる。)そしてその後、幹部の一人がヒットマンを携えて滝沢を始末しにビジネスホテルにやって来るが、滝沢が返り討ちにする。しかし、その場で一部始終を目撃した工藤は、滝沢を逮捕せずに逃す。(工藤は若松殺しの証拠の銃も、勝手に現場で回収している。)

 次期総長は中里で決まりつつあったが、総長の長男で考古学者の浩一が名乗りをあげ、自分の補佐に亀井を指名する。そんな事情を何も知らない中里は別荘に幹部達を集めていたが、そこへ、ドスを持った滝沢が復讐にやってくる。それにいち早く気づいた亀井は、(おそらく中里を殺させるため)誰にも告げずそっとその場を離れる。滝沢は中里を刺し殺し、佐々木の脚を撃ったところで、周囲を包囲され、その場から逃走する。そしてこの時、滝沢は、総長を殺したのが亀井であると知る。

 総長の葬儀にて、亀井の元にドスを持って乗り込む滝沢。大勢の組員に銃口を向けられながら亀井に刃を突き付けるも、亀井は浩一が三代目総長に就任することを告げ、浩一には自分が必要だと言い放つ。「亀井…四代目があると思うな」と言い、刀を鞘に収める滝沢。そこに浩一が現れて、滝沢になぜ父を殺したのかと尋ねる。何も答えず立ち去る滝沢。その背中に、浩一が発砲した銃声が悲しく鳴り響く…。

※『侠道』が好きすぎて、かなりの長文ですみません。末尾の「登場人物」と「あらすじ」は自分のための備忘録です。全体的に説明的なセリフが少ないので、状況を掴むのに苦労したので。「金子を殺ったのは佐々木だ!」とか衝撃的な告白をされても(え…佐々木って誰だっけ?)ってなりましたから。
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