あなぐらむ

インファナル・アフェアII 無間序曲のあなぐらむのレビュー・感想・評価

4.5
この映画を観て最初に思ったのは、香港人にとってあの日、1997年7月1日というのはやはり特別な日だったのだなという事。
香港返還については、名作「メイド・イン・ホンコン」「花火降る夏」のほか、多くの香港電影で語られているが、多くの香港人にとって
「あの日」はやはり特別な感情と共にあるのだと思った。
何かが終り、何かが始まる日。何かを捨て、新しい何かの中で生きなくてはならなくなった日。
エンディングで印象的に描かれるこの一連のシーンを見ながら、そんな事を思った。

作品自体は、1作目が脚本の妙で見せる作品だとすると、今回は役者の演技でぐいぐいと見せる感じ。
群像劇はアンドリュー・ラウの得意技でもあるし(古惑仔)、演技陣は渋い連中、当時の香港電影のクオリティを支えてるメンツが揃って出てるわけだから、それだけでも見応え充分。
極道の姐さんを壮絶に演じきったカリーナ・ラウが素晴らしい。あれじゃエディソンじゃなくても惚れるよ。
そして今回のゲストキャラ、ン・ジャンユーがまたイイ。この人はほんと演技の幅広いなぁ。静かなる凶暴さが見事に感じられた。
個人的にはロイ・チョンが…。まぁ途中で気づいたんだけど。
アンソニー・ウォンも凄かった。あんな情けないアンソニー・ウォンは初めて見たかも。あの狼狽っぷり。泣ける。
そうやってみんな「鬼」になって「無間地獄」に落ちていったんだな…と、もう一度1作目を見たくなる事必至。これが続編でやるべき仕事である。

ショーン・ユーは一生懸命にトニーを真似てて、段々と本当にトニーの若い頃に見えてくるのがイイ。終盤の服装が1のトニーの服装イメージなんだよね。対するエディソンはこの時点では無表情ながらまだ甘さがあって、徐々にエリートとして昇りつめていく感じ、そして「あの事件」以降の心持の変化も含めて、やはり1のアンディに繋がっていくのだという。「マリー」に隠された秘密も含めて、この辺は脚本を誉めてあげたい点。
あとヤンとラウのそれぞれの癖が、1作目との見事なジョイント?になってるのも巧い。嬉しくなっちゃうよね、この辺。

「善人でありたい」、この一言のなんと重いことか。
人はみな罪と傷、そして業を背負って生きていかねばならず、それでもなお、だからこそ彼らは「無間地獄」に落ちていくしかないという。なんとも切なくて重い映画だ。「無間道」三部作は全てルックが違いながら、年代記と流転する人生を見事に描いた屈指のシリーズだと思う。本作はその折り返しとして、若い俳優たちで見事に中継ぎを行っている。