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アル中女の肖像のnetfilmsのレビュー・感想・評価

アル中女の肖像(1979年製作の映画)
4.5
 ウルリケ・オッティンガー映画祭初日の今作が何と初回満席で(初回限定ポスタープレゼントもあったのだろうが)、午前中のユーロであり得ないくらいの人混みを味わった。発券の列は階段下まで並んでいた。エール・フランスのベルリン行きの飛行機が着陸する瞬間を捉えた尋常ならざるロング・シークエンスにオッティンガー映画初体験の私の心は弾むのだが、問答無用に素晴らしい映画に何か久しぶりに出会った気がする。テーゲル空港でのアナウンスはアフレコ改変だが、彼女(タベア・ブルーメンシャイン)はこの地にずっと留まるつもりで、片道切符を購入する。今回の旅を明けを飲み続けるだけの旅と称した彼女の決意は揺るがない。というか何かしらの辛い体験が彼女を酒へと走らせるのだが、それが明確に何であるかの言及は避けている。空港にたどり着いた彼女と同じく、学会の為にこの地に着いた3人のインテリ女性もまた、彼女の道すがら何度も登場する。タベア・ブルーメンシャイン扮する彼女があらゆる常識や因習のタガが外れた女性だと仮定するならば、学会に出席する3人の女性はいわゆる社会の平均的な意見を声高に叫ぶ女性たちとして登場する。このタガが外れたヒロインと3人の常識的な女性との対比が何とも批評的で、4人は同じ場所を共有しながらも、1対3の図式的な構図はそう簡単に覆りそうにない。

 あのライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが「ドイツ史上最も美しい映画」だと評したのはお世辞でも何でもない。前半から人物の配置が極めてゴダール的で、それぞれのシークエンスそれ自体がCMだとされても納得が行くような極めてスタイリッシュな映像の数々は、ウルリケ・オッティンガーの類まれで圧倒的な映像センスが垣間見える。それはブルジョワジーでマダムと呼ばれる主人公の軽やかな着こなしと色彩の妙。そしてしばしば繰り返されるガラスを見ることとそこに写る人物の染みったれた表情による絶望感。そして全てを無かったことにするような液体ぶっかけと叩きつけられるグラス。声を失ったかに見える彼女は最貧困層のカートひきの女性(おそらくロシア人)と意気投合するのだが、それ自体が彼女の倫理観に依拠する明確な判断なのかは観客に委ねられる(その前の場面ではヒロインが孤独に酩酊するすぐ隣の席に学会に主席する3人の女が陣取り、大声で喚き散らすのだから)。酩酊を静かに生から眠り(ひいては死)をいざなう行程とするならば、彼女は進んで自らの身を退廃に晒そうとする。あの予告編のCMでも見られた階上のタベア・ブルーメンシャインと階下のドラマーとの謎のセッションのべらぼうなカッコよさは今年観た映画の中でも屈指の魅力を誇る。兎に角、観た事がない映像の連続は新鮮で、圧倒的に衝撃を受けた。
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