m

ヘイターのmのレビュー・感想・評価

ヘイター(2020年製作の映画)
4.0
完璧な悪とはなんだろうか。また、完璧な善とはなんだろうか。善悪というカテゴライズも今作で描かれたように操作されているのかもしれないと思った作品。

『聖なる犯罪者』で惚れたヤン・コマサ監督の最新作。
『聖なる犯罪者』でも感じたような正反対の相反するものをぐちゃぐちゃに掻き混ぜ、ぶち込んだ作品だった。
彼の作家性ともいえるだろうこの描き方は今作もキレッキレで、なにを基に善悪を判断したらいいのかと迷ってしまう。
今作は少々『ジョーカー』っぽさを感じる。ただ、『ジョーカー』より切り口は斬新ではないかと思った。

論文を盗用したことによって大学を退学になったトメク(マチェイ・ムシャウォウスキーさん)は、ネガティブキャンペーンを密かに行っている会社に就職する。そんなストーリー。
『ジョーカー』に似ているというのは、貧困、悪意、誘導、ここまで書くとこの手の話が好きな人は分かるかな。
『タクシードライバー』のトラヴィスや『ジョーカー』のアーサーに似た鬱屈、苛立ち、自ら道化師になる意気込みなど似た点が多い。

ただ似ている映画はあるのに、上記の二作品とは違う描き方をしているのが今作の凄いところ。
ネタバレになるから書かないでおきたいのだけど、ストーリー全体に善意と悪意が入り混じっている。SNSというカオスな世界を題材にしただけあると思うぐらい、混じりに混じって境が分からなくなっている。
オープニングの明確な悪意は胸糞、と言っていいと思う。久々にこんな清々しい胸糞を見た気がする。それが日常に溶け込んでしまっているから恐ろしい。

SNSでネガティヴキャンペーンを行う主人公トメクを演じたのはマチェイ・ムシャウォウスキーさん。
ヤン・コマサ監督は身体で演技をする役者が好みらしい。今作のマチェイ・ムシャウォウスキーさんも素晴らしくよかった。全編通してセリフは少ない。ただ目付きや体の使い方で喜怒哀楽を見せてくれて、『聖なる犯罪者』で怪演を見せてくれたバルトシュ・ビィエレニアさんと似ていた。
『ナイト・クローラー』のルイス(ジェイク・ジレンホールさん)のような冷徹な瞳がいい。

SNSってなんなんだろうな。
最近はSNSありきの世界になっていて怖いと感じてしまう。ドナルド・トランプ前アメリカ大統領もツイッターをフル活用し、昔は街中を歩いていたヘイト活動もいまや、家の中指先ひとつでできる。
けれど、有名人は置いておいても、一般人はどこまでも匿名性を孕んでいる。
今作にも出てきたネガティヴキャンペーンもやろうと思えば、一般人は簡単に出来てしまう。
そんなSNSという恐ろしいものを、世界の中心にしてしまうのはどうなのだろうか。
私も、最近、SNSの闇をみてしまったからなんとも言えない…。

ひとまず今作は昨今の状況を的確に描いている恐ろしい作品。ラストも含みのある終わらせ方をしていていい。
今作が描き出していたことが現実に起きてしまい、公開が遅れた、というのがもう全てだと思う。

ヤン・コマサ監督、好きになってきたよ!

ストーリー : ★★★★☆
映像 : ★★★★☆(ゲームの映像素敵だった)
設定 : ★★★★☆
キャスト: ★★★★☆
メッセージ性 : ★★★☆☆
感情移入・共感 : ★★☆☆☆
m

m