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海辺の彼女たちのjamのレビュー・感想・評価

海辺の彼女たち(2020年製作の映画)
4.0
大丈夫、また元の生活に戻れるさ

そうブローカーのダンさんは言うけれど
その"元の生活"が決してしあわせなものでないこともフォンは知っている

技能実習生としてそれぞれ夢を抱いてやってきた
フォン、ニュー、アンの三人
けれど1日15時間土日もなく働かされ
賃金まで滞るようになればベトナムの家族へ送金出来なくなる

身分証もパスポートも置いたまま脱走
身を寄せたのは風雪の海辺の街

一度仕事を受けたら戻れない
考えてきてんだよね?

慣れない港での重労働
少しでも手を止めると
「ベトナムに還すよ」と怒鳴られる

妹を進学させたいの
韓国の歌手みたいな男の人と結婚したい

寒風吹き込むトタンの小屋
アルミの鍋の湯気を囲みながら夢を語る
そのひとときだけは
彼女たちの頬が薔薇色に染まる


先日観た「僕の帰る場所」の藤元監督
実際にSNSで受け取ったメッセージから
この映画を撮ろうと思った、と舞台挨拶で話された

ドキュメンタリーと見紛うごとき
圧倒的なリアリティ

東北の冬の風
積もる雪を踏む軋むような靴音
故郷とはまるで違う空の色や波の音
彼女たちの不安な瞳に映る世界が
ふたたび明るい色を取り戻すことは出来るのだろうか?


一人の女性としてのしあわせ
故郷で待つ家族のしあわせ


何のために日本に来たの?
今捕まれば帰国させられて日本には戻れない


悴む手を小さく朱いストーブの温もりにかざして
フォンの下した決断は
観る者に多くを考えさせる


ラストは当初考えていたものとは違う結末になった、と言う監督の話を
もう少し聴いていたかった
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