セサミオイル

ノマドランドのセサミオイルのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.2
起伏のないストーリー、大した事件も起きない。しかし起伏こそないがずっとすごいとも言えるし、よく考えたら彼女の置かれてる状況はちょっとした事件とも言える。
ノマド=遊牧民という認識だったが働きながら旅を続ける「ワークキャンパー」を指す言葉でもあるという。略してワーキャンパー。
映画ではこのワーキャンパーである1人の女性を追いかけたドラマであり、彼女の旅を通じてアメリカの影を知ることの出来る映画でもある。
影とは何かというと、アメリカでは突然村が機能しなくなるという事が少なくないらしく彼女が住んでた村もそう。村の工場が閉鎖になると村人が住んでる住宅の価値もゼロになりあっという間にコミュニティ解散、村人も全員村を出てく。アメリカではこういう事例は少なくなく、当事者達の多くは貯えや年金では生活を立て直す事もままならずワーキャンパーになるのだという。しかも高齢者。
彼女もその1人だが彼女は同時に最愛の夫を亡くすのである。
ここから物語は始まる。

起伏のない物語であるが語り尽くせないんですね。濃いという表現も少し違う。意義が深い、物語の背景にある事情が深い、舞台が大陸なので色々スケールがでかい。アメリカが抱えてる病みもスケールがでかい。
自由なワーキャンパーの生活を垣間見てこういう方々が暮らせるってなんて懐深い国なんだと思う反面、死ぬなら勝手に死ねみたいな部分もあってやっぱり怖かったりもする。揺れ幅のスケールもでかいんですよね。

ワークキャンパーは大自然の中を旅し続ける。しかししかし中々どうして現実は厳しい。
まかり間違ってうっかり優雅にも見えたりするんだけど、実際生活レベルは低いし、備えが無いのでちょっとした病気や車の故障なんかが命取りになる。ワーキャンパーを続けてる限りはずっとギリギリの綱渡りなんですね。
自由と解放感を満喫してるようで孤独と将来への不安は日に々に増す一方。
それでも旅を続ける。
何故か?この映画でははっきりと語らない。
しかし主演女優の佇まい、顔のシワが何かを語りかけてるような気がしてならないんだよね。
すごい女優の存在感。
彼女なしではこの映画は成り立たなかっただろう。

アメリカの大自然がスクリーンいっぱいに映し出される。決して色気のある映像ではなく、たまたまカメラがあったんで一応撮っときましたって感じの素っ気無い映像だがそこが良かった。
カメラの高機能やカメラマンの技術でもって人間の目で見える以上の映像にしたりしないというかね。人間がそこに立ったら見えるそのままの風景を映像にしてくれてた。

ドキュメンタリーのように物語は語られるが、ほんとのドキュメンタリーだったらプライベートの問題で絶対カメラを回せないみたいなシーンも沢山ありドキュメンタリー以上に生々しく、それらのシーンが語りかけてくるものは大きい。
自分も当事者であるように錯覚するまでもってってくれます。

とにかく観たあとにジワジワとくる三年殺しのような映画。
おすすめ!