なべ

ノマドランドのなべのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
2.8
 コロナ禍で新しい映画があまりなく、それどころか、休館してる映画館が多いGW。でも何か観たくてノマドランドへ。
 リーマンショックで家や家族を失った傷ついたアメリカ人。アメリカを流浪する高齢労働者たち。そんなノマドライフを送る女性ファーンにそっと寄り添いながら、彼女らのミニマルな生き方を追う映画。実際の放浪者が出演しているせいか、ときどきドキュメンタリーを見ているような錯覚を覚える。まあ、原作がノンフィクションだからね。
 正直にいうと退屈だった。2時間足らずの作品がとても長く思えて、最後の方は尿意との戦いだった。エンドクレジットを最後まで見ないでトイレに向かったのはブラッククランズマン以来だ。

 被害者然とした悲鳴のような主張はないし、誰かの責任を問うような憤りもない。あるのは、ただ失ったものを想い続け、死に場所を求めてさまよっているような寂寥感。
 切なくはあるけど、優しさを拒むような頑固なプライドも感じられ(いざとなったら頼れる肉親もいたりして)、哀れには思えない。
 全然押し付けがましくないというか、むしろしっとりしたまなざしのいい作品なんだと思う。思うけど、見終わって出た感想は「知らんがな」だ。残念ながらぼくはファーンの生き方に寄り添うことはできなかった。
 他に選択肢があってもノマドを選んでしまう彼らが、まるで過去に生きている幽霊のように思えたから。新しい刺激や希望は求めず、ちょっとした出会いと、ちょっとした再会を糧にささやかに生きている感じ。失うことが怖くて、ハナから得ることを拒んでいるようにも見えて、へー、陽気なアメリカ人にも臆病で繊細な年配者がいるんだなとちょっと変な感心をしてしまった。
 こういうアメリカ人がいることを嫌味なく訴えた意義は大きいのだろう。実際にはもっと過酷な現実や厳しい局面もあるのだろうが、そこはうまいこと選別して、なんかいい感じに仕上げてる。それはわかる。アカデミー賞あげないと人でなし呼ばわりされそうな圧もわかる。アメリカの自然や季節のうつろいもそれなりに感じられた。フランシス・マクドーマンドの演技も渋い。でも退屈なロードムービーなんだよなあ。きっとここに描かれてない現実を端折った都合のいいロマンチックさが気に入らないんだと思う。
 何もかも失って、孤独が友になるような境遇になれば、ファーンのような生き方が切実に感じられるのかもしれないが、今のところそれはない。まだ新しい出会いや絆に価値を見出せるし、あまり過去を振り返ったりもしないから。ごめんね、ファーン。
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