岡田拓朗

ノマドランドの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.1
ノマドランド(Nomadland)

ノマドとノマドランドがドキュメンタリーっぽく描かれている本作は、それらを前提とした「生きる」と比較した自らの過去を思い返しながら今、そしてこれからの「生きる」を考えさせられる内容となっている。

じんわりと沁み渡ってきながら、今の自分にじんわりと刺さってくる作品でもあった。

ノマドと言えばノマドワーカーのイメージが強く、あらゆる場所を転々としながらどんな場所でもできる仕事を持っている人のイメージが強かった。

それゆえにここまでのサバイバル性を感じるとは思ってなくて、でもこれこそがノマドとして生きることなのかなとも感じた。

一人でも孤独ではないこともあるし、多くの人と関わっていても孤独を感じることがある。
生きていく中で、経験とともに色んな状況や感覚を経てきて、理想を追い求めながら生き方を変化させていくものの、結局ないものねだりが終わらないループで今に至ってる。

本作を観ていると、結局生きることに対して自分は何を求めているんだろうと問われてるような感覚になる。
そして、それが意外と理解できてない自分に気付かされる。

でもそんなことを考えるよりも今生きることを最大限楽しめるように、充実させられるように動き回り続ける生き方もありなんだなと。
思い返してみると自分の大学生活はそんな感じだった気がする。
最近は日本でも家を持たずに生活している人もいるそうで、住む場所を一つに定めないからこそ得られるものの素晴らしさがこの映画の中には広がっていた。

今ここで生きてると自分がやばいと思ったときに助けを求めることにだんだんとハードルが上がっていって、それに伴って気軽に人と繋がりづらくもなってる気がする。

生きることを実感したり人生を充実させる上で、人との関わりはとても大事なはずなのに、歳を重ねるにつれてその一歩が重くなっていく。
本当にあのフットワーク軽すぎた大学生活は何だったんだろうと思う。笑
おそらく親の存在があって、自分だけで生活を営まないといけないことを考えなくてよかったのは大きくて、それによって考えるよりもとりあえず行動で生きていけたのもあったからというのも理由としてはありそう。

そして、ノマドは思い出を残していかない生き方であり、ノマドランドは一人を孤独にさせない場所であると自分は捉えた。

ノマドには素晴らしい出会いと別れが詰まっている。
生きることが助け合いと関わり合いを前提になされるものだから、そこに自然と繋がりが生まれて和ができる。
さよならではなく、また会うことが前提になって別れていき、すぐに新しい出会いがあるから、全てが思い出にならずに今が地続きになって更新されていくだけで、刺激的な楽しい場が次々に生まれる生き方でもあるんだなと。

一人で生きながらも孤独には生きたくない人にとって、ノマドという生き方とノマドランドという場所はハマってるんだなと思った。

そういや東南アジアを一人で回ったときは、初対面の人と関わらざるを得ない状況だったから、話して打ち解けてすぐ仲良くなれたし、ああいうのって楽しかったなーと。
自分が一人で生きるのが難しい場所にあえて一人で行ってみると、誰かと関わらないといけなくなるから、得られるものがあって…でもそれはなかなか心理的なハードルが高くて誰にもできることではなくて。
大小あれど、そんな葛藤の中で日々を生きている感じがした。

人と人との関わりにおける大切なことが映し出されていた点が近しかったからか、作品のテイストは全然違うけど、不思議と『町田くんの世界』を観たあとに感じた感覚と近しいものが残った。

本作では、ノマド生活を送ることに対しての厳しさは触れてはいたけど、あまり深くは描かれてなかったように感じる。
本当はもっと色んな苦労もありそうだけど、充実感を持って生きてる人は多そうだなと思った。

この作品は純粋に、なんか今観てよかった。
今の自分を見つめ直すきっかけになった。
捨てられないものを抱えすぎて、大切なものが徐々に減っていってる気がする。
岡田拓朗

岡田拓朗