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ノマドランドのmidoredのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
3.0
車中泊と季節労働で生きる現代アメリカの放浪者(ノマド)になった初老女性の物語。

高齢ノマドたちの自主独立精神や雄大なアメリカ大陸の風景に、ヘンリー・ソローから続く精神的な伝統を感じました。あるいはヒンドゥ教徒の遊行期のような、歳を経て世のしがらみから解き放たれた姿のようにも見えますし、破綻しつつある経済システムからの難民という背景さえ無視すれば『イントゥ・ザ・ワイルド』に近い清々しい印象も受けました。

ただ、全体通して地味にしんどい作品でした。1人きりの新年やトイレのシーンではうめいてしまいました。何十年も真面目に働いた末に、糞尿をバケツに溜めながらの孤独な放浪生活にたどり着くのはどう考えても理不尽です。

この生活によって主人公が癒されるストーリーにしても、ノマドというホームレス状態を、自由意志で選択できる「新たなライフスタイル」として賛美の方向に持ってゆくのは、人を使い捨てる大企業およびそんな会社に許可を与えている国家の無責任さのごまかしにしかならない気がします。ニューエイジ運動によって社会の個人主義化がより一層進んだという話を思い出します。

あと、『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した』などの潜入ルポでお馴染みの悪名高き“フルフィルメント・センター”が、和気あいあいとした楽勝な職場として描かれていて戦慄しました。部外者厳禁の倉庫内にカメラを入れる交換条件としてジェフ・ベゾスから指示を受けたのだろうかとか、いやこれはセットか、などとあれこれ楽しく考えてしまいました。

正直なところ、このアマゾン倉庫のシーンが1番興奮しました。
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