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ノマドランドのcinemakinoriのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
3.9





“ホームレスじゃくて、ハウスレスよ”






フランシス•マクドーマンド×クロエ•ジァオ
渾身のアカデミー受賞作品。



徹底的なリアリズムの裏付けは、【ザ•ライダー】の時のロデオマン同様、実際のノマドの民を映画で起用しているという拘りで、それが今作の訴求力の大部分を占めている。
もちろん、【スリー•ビルボード】で圧巻の演技力を魅せてくれたF•マクドーマンドの半端ない演技力も然りなのだが、これに関しても彼女自身もノマド民と共に生活をし、旅をし、そのリアルを共有して生まれた演技そのものである事が前提として大き過ぎる賜物。




本作は、
面白いか面白くないかで評価出来る作品じゃないのは間違いない。

その理由の一つとして、人生は面白いことだけではないし、自由とは楽しいことだけではないと言う現実を、この作品は非常に淡々と、且つ繊細に、そしてとても美しく描いているから。
演出や飾り(アレンジメント)と言えば、クロエ•ジァオ特有の大自然のリアルな映像美と、チル感漲る音楽くらいなもの。

寄りも引きも、とにかく美しく、そして生々しい映像は【ザ•ライダー】の時の感覚に相当近い。
恐らくプロデュースしているF•マクドーマンドがそれに惚れ込んで彼女に監督を依頼したであろう経緯がひしひしと伺える。


日本という、ある意味伝統や文化や作法や協調性の中で育まれる独特の思慮深さ故の団体生活の中での“個”とは別の世界線で描かれている“アメリカ”らしい“個”を、多様性という現代的なムーブメントに則って描いている温故知新的なメッセージは、とてもわかりやすく世界の人々の心には刺さるのかも知れない。

それが正解とも、それが不正解とも言わず、地球上には多種多様の価値観や生き様、そしてそれに伴う哲学が存在していると言う点で、それぞれの人生を見つめ直す時間があっても良いんじゃない?と問いかけてくれているかのような作品。


ふと、何かに詰んでしまった時や、思い悩む瞬間にまた観たくなる映画かなぁと。









“さよなら”の要らない生活が此処にはある
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