けーすけ

ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償のけーすけのレビュー・感想・評価

3.5
1966年、シカゴ。FBI捜査官になりすまして車を盗もうとしたウィリアム・オニールはあっさりと警察に捕まってしまった。数年の刑務所行きとなる罪であったが、FBIのミッチェル捜査官から「ブラックパンサー党のイリノイ州支部に潜入し、内部情報を提供してくれたらこの事件は無かった事にしよう」と取引を持ちかけられる。刑務所行きを逃れる為に、協力する事にしたオニールであったが・・・





1960年代後半から70年代にかけ、アメリカ国内で黒人解放運動を展開した政治組織“ブラックパンサー党”の指導者だったフレッド・ハンプトン暗殺事件の真相に迫る、事実に基づいた映画。


ブラックパンサー党は過激な部分もありつつも、イリノイ州の党員をまとめる議長のフレッド・ハンプトンは貧困層の子供に無料で朝食を与えたり、巧みな話術で敵対関係にあるグループと協力を取りつけるなど若いながら実力も人望もある人物。

FBIはそんな組織が強大化する事を危惧し、彼らと同じ黒人のオニールをスパイとして送り込む。オニール本人も頭の切れる人物で、徐々にハンプトンの信頼を勝ち取り、党の警備主任を務めるまでに出世する。内通した情報で報酬を得ていたが、最後にはFBIのハンプトン暗殺の計画に加担せざるをえない状況にまでなってしまっていた。




ハンプトンの史実を描いてはいるのですが、オニール視点で物語が進むので中盤以降の「ハンプトンは本当に悪なのか?」という思いと、「自分が内通者だとバレたら恐ろしい殺され方をする」という彼の葛藤がなんとも重苦しく観ている側へも伝わってきます。

2020年にもBLM運動が活発となるような事件がありましたが、一体何度同じような事を繰り返すんだ?と思わせる警察における黒人差別は本作でも生々しく描いてあり、ハンプトンが迎えた最期には本当にそこまでする必要があったのか…?と考えさせられました。



ハンプトン役を演じたダニエル・カルーヤ。『ゲット・アウト』でも好演してましたが、本作でも集会で熱弁をふるうシーンが圧巻。強さを見せる一方で恋人にデレるシーンがなんともかわいいというギャップも良かったです。(第93回アカデミー賞にて助演男優賞を受賞)

オニール役を演じたのはラキース・スタンフィールド。本作は恐れや葛藤、悩みを表現する時の目の演技がとても光っていたと思います。



本作では序盤、オニール本人が当時の事を回顧するインタビュー映像から入り、劇中でも当時の事を語る彼の姿が差し込まれるのですが、最後にその映像の重さを知り、なんとも言えない鑑賞後感が心にのしかかりました。

考えさせられる一作、オススメです。コロナの影響で劇場公開は無かったのですが、機会がありましたらレンタルでぜひ。


2021/08/30(月) オンライン試写にて視聴
[2021-072]
けーすけ

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