Punisher田中

ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償のPunisher田中のレビュー・感想・評価

3.8
車泥棒をはたらき、逮捕されたウィリアムはFBIにとある提案を受ける...
「ブラックパンサー党での潜入捜査に協力すれば、君の罪は帳消しにしよう」
黒人差別が警察内部にも横行していたこの時、ウィリアムにはそれが魅力的な提案だということは分かりきっていた。
ブラックパンサー党へ早速潜入を始めるウィリアムだったが...

一昨年、アカデミー賞などの賞レースに名を連ねた今作。
しかし、日本ではまさかの劇場スルー、気付けばようやくデジタルで視聴することが出来るようになり、やっとの思いで鑑賞することができた今作。
今作は賞レースで話題になったことも頷ける、ブラック映画ならではのパワーに満ち満ち溢れていた。
今作が話題になった年にはBLM運動が各地で巻き起こり、未だに黒人を受け入れない白人至上主義による事件が話題となっていたが、そんな話題に我関せずだったであろう人には刺さる作品であったのは間違い無い。
1人の黒人がFBIに雇われ、黒人政治コミュニティに潜入捜査するといったスリル満載のストーリーだが、そこには""我関せず""とはいかない状況と""我関せず""だった者の末路が待ち構えており、もしかしたら今作を期に、人種問題と向き合う人がより増えていたかもしれず、今作を国内の劇場で公開しなかったのには本当に残念としかいいようがない。

今作のメインキャラクターであるハンプトンを演じるダニエル・カルーヤ、そしてハンプトンの側近でありながら、潜入捜査をしているウィリアムを演じるラキース2人の名演がとにかく凄い。
人をどこまでも心酔させてしまう演説力を持つハンプトンの醸し出すカリスマ性と場を制する演説力を表現しきる表現力が凄まじいダニエル・カルーヤ、それに対してウィリアムの内面的な葛藤を繊細な演技力で魅せるラキース、この印象的な2人の演技が脳に焼き付いて鑑賞後も多いに悩まされることは間違いない。
どこにも逃げ場がなく、ただ""我関せず""を決め込むしかないウィリアムは現代を生きる僕達を投影した存在であり、目の前の絶望と希望にただただしっぽを振り続けることへの恐怖を今作は描いている様に感じられた。