けいり部

アイダよ、何処へ?のけいり部のレビュー・感想・評価

アイダよ、何処へ?(2020年製作の映画)
4.1
子どもたちよ 平和の中で育て
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Fan's Voice様独占最速オンライン試写会にて鑑賞。

1995年という遠くはない過去に起きた「スレブレニツァの虐殺」を国連軍の通訳として働くアイダの視点から、圧倒的なディティールを持って描かれた作品。
セルビア兵の侵攻により国連施設へと避難して来た何の罪もない一般市民までを対象にした大量虐殺。その真実はおぞましく何度も背筋が凍った。

通訳という仕事に対してこんなにも怖いイメージを持ったのは本作を観て初めて。
冒頭から最後まで、戦場で通訳を行うことの緊張感が途切れない。
"このゲートを通ることが出来なければ殺されてしまう"そんな想いで命からがら避難してきた2万人もの命が自分の行動に左右されかねない。これは荷が重い。

終始緊張感が半端なく、その緊張感たるや『ホテル・ムンバイ』を思い出した。
銃を持った兵士相手にまともな交渉なんて無理。銃をチラつかせられている時点で圧倒的に不利なのだ。
自分たちの明日の生き死にが誰かの手に握られている状況は観ている方も生きた心地がしなかった。

もしも自分が国連職員で、もしかしたら絶体絶命の状況から助かる可能性がある方法を知っていたら… 是が非でも何かやってやろうと果たして考えられるだろうか。
アイダの勇気、母親としての息子たちへの愛情、国連軍への失望と憤り。

避難民たちの裏切られる希望、わかりきった嘘に対する絶望。
何も知らなかった子どもたちの笑顔。
観ている間は色んな感情に取り憑かれた。


悲しい結末が目に見えてわかるのになぜ、国連軍は避難民を見捨てたのか。
悲劇の歴史をまた繰り返さないために広く観られるべき作品。
けいり部

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