akrutm

アイダよ、何処へ?のakrutmのレビュー・感想・評価

アイダよ、何処へ?(2020年製作の映画)
4.5
国連軍の通訳である元教師の女性アイダの視点から、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で起こったスレブレニツァの虐殺を描いた、ヤスミラ・ジュバニッチ監督の戦争ドラマ映画。サラエボでボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を体験した監督が、いずれ映画で描かれるべきと考えていた題材を、自ら映画化した作品。

敵軍に支配され、国連軍のキャンプに押し寄せたボシュニャク人の市民たちの恐怖や無力さ、今まで街で一緒に暮らしていた人々が支配する側と支配される側に分断されることの不条理さが臨場感あふれる映像でリアルに描かれていて、そのクオリティの高さは称賛すべきレベルにある。心に直接訴えかけるこのような反戦映画は、多くの人々に見てほしいと思う。また、国連の職員でもあるアイダを主人公にすることで、国連軍の苦悩や無力さを内側から描くことにも成功している。実際に、国連によってスレブレニツァは保護すべき非戦闘地帯に指定されていたにも関わらず、国連平和維持活動を担うオランダ軍は小規模であるとともに、国連軍による空爆も行われず、ほぼ機能していなかったという現実は、国際紛争を解決するための組織である国連の限界を如実にあらわしている。

スレブレニツァの虐殺後に、セルビア人勢力はボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエヴォにまで攻撃を行うまでに至り、これを受けてNATOによる大規模な空爆が行われたことで、終戦に向かうことになる。映画で最後に描かれるのは、同年に戦争が終結したあとのスレブレニツァとアイダの決意であり、これまた胸が痛むシーンである。

主人公アイダを演じたヤスナ・ジュリチッチはセルビア人であるが、以前からヤスミラ・ジュバニッチ監督と仕事をしていることもあって、監督は当初から彼女の起用を考えていたようである。また、セルビア人勢力(スルプスカ共和国)の司令官であるムラディッチ将軍を演じたのは、ヤスナ・ジュリチッチの実の夫であるボリス・イサコヴィッチである。セルビアの一部では現在でも英雄として扱われているムラディッチ将軍を否定的に描いた本作でその役を演じたことで、政治的に圧力を受けているという。
akrutm

akrutm