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アイダよ、何処へ?のmaverickのレビュー・感想・評価

アイダよ、何処へ?(2020年製作の映画)
4.3
2020年のボスニア・ヘルツェゴビナ映画。第93回アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート作。


1995年に起こったスレブレニツァの虐殺が題材。こんなことが行われていたのかと胸が苦しくなる。ナチスのユダヤ人虐殺と何ら変わりがないではないか。争いにより、人はこんなことまで引き起こしてしまうのか。

舞台はボスニア・ヘルツェゴビナの町スレブレニツァ。主人公は国連軍として駐屯するオランダ人部隊の通訳として基地で働いている。そんな中で起きたセルビア軍の町の制圧。元々そこは国連軍の管理下にあり、国連軍はセルビア軍に対して町の解放を要求。本作は国連軍がその最後通達を宣告するところから始まる。住民たちは命の危険を感じ、国連軍基地に殺到する。だが全員を受け入れることは不可能。受け入れを拒否された住民たちは基地の外に立ちすくむしかなかった。

題材から悲劇の話だというのは事前に分かる。だがそこで何が起きたのか、その経緯はどうだったのかを知るに貴重な内容である。襲い来る暴力に対抗することも出来ず、なすすべもなく命を散らしていった人々は恐怖と無念さでいっぱいだっただろう。今も世界ではこれと同じようなことが起きている。人は何度このような愚かな過ちを繰り返すのだろうかと悲しくなる。

主人公のアイダは国連軍スタッフに登録されており、そのため自身の身の安全は保障されている。だが夫と二人の子供はそれに含まれていない。彼女は家族を守ろうと必死に立ち回る。その行為は自分勝手で横暴である。だがそうしないと家族が死ぬと分かっていて、誰が彼女のことを責められようか。自分が同じ状況に陥った時、大人しく「これはルールだから」などと言えるだろうか。アイダの行動を否定することなど自分には出来ない。

置かれた危機的状況が怖いほどに伝わる。まるでドキュメンタリーを見ているかのよう。これが作り物とは思えないリアリティを感じた。ただそこに注力したからか、出来事の背景が説明不足ではある。作中だけで概容を把握するのは困難。鑑賞後に調べるなどの保管は必要ではある。


内容は残酷で、その事実に胸が苦しくなる。描写的にはかなりぼかしてあって、直接的に残虐な映像が流れることはない。幅広い年齢層が鑑賞出来るように配慮したのだろう。戦争の残酷さを知るためにも、多く人に鑑賞してもらいたい作品だ。
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